7月号 職務専念義務

2019年 7月(第122号)

職務専念義務は労働基準法にも労働契約法にも明文化されていませんが、雇用契約に当然に含まれる社員の義務と解釈されています。
今回は、職務専念義務の法的側面、裁判例、違反者に対する懲戒時の配慮事項等を紹介します。

職務専念義務の法的側面

国家公務員法では、その第96条で、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と規定し、更に第101条で、「職員は、勤務時間及びその職務上の注意力のすべてを職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」と職務専念義務を明確にしています。地方公務員法でも同様の規定があります。民間の雇用契約に関連する法律では職務専念義務を定めている規定はありません。
民法第623条の雇用の定義で、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約すること」とあります。労働基準法では、原則として賃金は労働時間に応じて支払うことを規定しています。ここから、勤務時間中は全面的に労働に従事して、そのほかの活動は一切してはいけないとの結論に至ることに左程の違和感はありません。つまり、民間の雇用契約に関しても社員には職務専念義務は課せられていると解釈できます。

職務専念義務違反の裁判例

懲戒処分の有効性・無効性が争われた裁判において、会社が職務専念義務違反を主張している事例は多く見られますが、裁判所がこれを認めた例はそれほど多くありません。
例えば、私的メールをした社員を会社が職務専念義務違反として主張するケースでは、数回の私的メールが職務専念義務違反であるとしても、これをもって懲戒処分をするのは合理性に劣り、社会通念上相当重すぎ、懲戒権の濫用として無効とされます。ところが、平成17年9月14日の福岡高等裁判所の判決では、5年間で分かっているだけでも勤務時間中に3,000件ほどのメールの送受信を繰り返していた社員を懲戒解雇にした事例では、職務に専念すべき義務に著しく反し、その程度も相当に重いとして職務専念義務違反に対する処分の有効性を認めています。

懲戒処分時の配慮事項

懲戒処分は労働契約法第15条の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」に照らしてその有効性が判断されます。勤務時間中であっても、短時間、低頻度の次のような時間は一般的に職務専念義務の例外として扱われます。①トイレ時間、②家庭内の連絡時間、③喫煙時間、④雑談、息抜き時間等。ただし、短時間の喫煙も許されない業務もあります。そのときは就業規則等に明記し、周知徹底しておくことが必要です。
実際に懲戒処分をするためには、①公平性:ある特定の社員の狙い撃ちは不可、②注意喚起・警告:注意も警告もなしで、いきなりの処分は難しい、③良好な職場環境:厳しすぎると職場がギクシャクして活気がなくなる、に配慮すべきです。
会社の目的は、職務専念義務違反者を処分ことではありません。社員が職務に専念することによって生産性を上げ、業績を上げることが目的です。懲戒処分に際しては、真の目的を見失わないように検討することが肝要です。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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