Q: 自律神経失調症で欠勤している社員から、症状の原因は上司からのパワハラによるものであり労災ではと言われました。会社は労災でないと考えていますが、資料を見て先生の見解をお願いできますか。
A: 労災の認定は労働基準監督署が行いますが、本件が認定される可能性は低いと思われます。
勤務時間中の怪我であれば、該当性の判断はあまり難しいことではありません。病気とくに精神疾患の場合は原因が業務以外にも考えられるので、総合的な判断が求められます。労働基準監督署は次の3つの要件で認定を行います。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
①の「認定基準の対象となる精神障害」とは、うつ病や統合失調症等の8種が定められています。自律神経失調症は正式な病名でないことが多いので、正式な病名を医師に確認する必要があります。
②の「業務による強い心理的負荷」は「業務による心理的負荷評価表」により「強」と判断されることです。資料の内容では、「業務による心理的負荷評価表」の次の部分が判断基準として使われる可能性があります。
・出来事の類型 → パワーハラスメント
・具体的出来事 → 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた
身体的攻撃はないので、精神的攻撃の「強」となる具体例を抜粋します。
a: 上司等から、次のような精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた
▸ 人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
▸ 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
▸ 無視等の人間関係からの切り離し
・・・ 以下省略 ・・・
資料には、「突然大声で」とか「大声で怒鳴られた」とかの記述はありますが、上記の判断基準にピッタリと該当する行為がありません。当方の見解としては、「強」と判断されるのは困難で、よって労災と認定される可能性は低いと思われます。
③に関しては、人となりや家族構成が分からないのでコメントできません。
労災に認定されないとしても、安全配慮義務違反として損害賠償の請求可能性は排除できません。今回の上司の行為がパワーハラスメントであるか否かに関わらず、何らかの解決法を模索しなければなりません。限られた人的資源の中でのやりくりは大変なことは分かりますが、できる限りの対策を取って頂きたい。
(2024年10月)