1月号 パワーハラスメント(その1)

平成22年度の労働トラブルが労働局のあっせん申請まで発展した内容を見ると、「解雇」が37.5%と最も多い。第2位は『いじめ・嫌がらせ』の14.4%、第3位は『労働条件の引下げ』の8.3%と続きます。第2位の「いじめ・嫌がらせ」が上司から行われるとパワーハラスメント(以下パワハラと略す)となり、労働トラブルの深刻度が増すことになります。今回はこのパワハラについてまとめてみました。

パワハラの定義

法律的にパワハラを定義したものがありません。一方、裁判例ではパワハラと判断されたケースが蓄積されてきております。それによると、次のようなときにパワハラと判断されているようです。すなわち、「職務上の地位を濫用して本来業務の適正な範囲を超えて相手の人格や尊厳を侵害する言動により、身体的、精神的な苦痛を与え、または就業環境を悪化させる行為」があったときです。

パワハラの裁判例(1)

裁判においてパワハラと判断された静岡労働基準署長事件があります。化学会社にMR(医薬情報担当者)として勤務していた男性Aは上司である係長のBからの言動が苛酷であったために精神疾患を発症し、家族や上司に遺書を残し自殺したものです。労働基準監督署長は業務と精神障害の発症、自殺との間に相当因果関係は認められないとして労災不認定としました。裁判では、上司Bは相手の言うことを最後まで聞かず、大きな声で一方的に,しかも相手の性格や言い方等に気を配ることなく傍若無人にしゃべることから、相手を傷つけやすい傾向があるとしています。その上で、上司としての指導の方法が社会通念に照らして相当でないと判断しています。すなわち、「存在が目障りだ。お願いだから消えてくれ。」、「車のガソリン代がもったいない。」、「お前は会社を食いものにしている、給料泥棒。」の言動は指導の範囲を大きく超えていて、精神疾患を発症させる程度に過重な心理的負荷を強いたパワハラであったと結論付けています。

パワハラの裁判例(2)

川崎市水道局いじめ自殺事件として有名なパワハラがあります。職員Dは水道局工事用水課に異動になった直後から、上司3名から陰口、卑猥な言動、悪口、嫌がらせを継続して受けるようになり、遺書5通を残して自殺したものです。裁判所は上記のような行為を執拗に行った経緯に照らし、職場いじめがあったと認定しました。その上で川崎市には、加害行為を防止し被害者の安全を確保して災害発生を防止する安全配慮義務があるとして、1,172万円余の支払いを命じました。

企業リスクとしてのパワハラ

指導とパワハラを混同している向きもありますが、業務指導の範囲を超えた叱責はパワハラとなり何の効果もありません。それどころか、会社にとって大変なリスクです。単に損害賠償のリスクがあるだけでありません。パワハラは職場からヤル気や活気を消し去り一体感を失わせ、組織としての力を破壊してしまいます。

次号では、会社リスクとしてのパワハラを防止する方策を紹介する予定にしています。

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