10月号 公益通報者保護法

2024年10月(第185号)

今月の事務所通信は、今年大きく話題となった公益通報者保護法を取り上げました。内部通報とか内部告発とか気持ちの良い言葉でありませんが、自浄作用をなくした組織には致し方ない問題解決の方法なのでしょう。心理的安全性を高めて、風通しのよい企業風土にすることが最良の対策です。

今年、令和6年には鹿児島県警と兵庫県知事をめぐる2つの通報事件が公益通報者保護法絡みで大きな話題となりました。今回は、公益通報者保護法と事件の概要についてまとめてみました。

公益通報者保護法とは

この法律は内部通報者を保護するために平成18年(2006年)に施行されました。内部通報者への解雇等の不利益な取り扱いを無効とすることが含まれます。通報先としては、会社内部、監督官庁や警察などの取締り当局、その他マスコミや消費者団体などが定められています。内部通報者が保護を受ける要件や手続きも規定されています。例えば、通報内容が刑法や労働基準法をはじめとする数百に及ぶ特定の法律の特定の違反行為であることや、通報内容が真実であると信じるに足る理由、さらに通報が不正目的でないことなどが定められています。

令和4年(2022年)に改正法が施行され、①行政機関や外部への通報要件の緩和、②保護される通報の法違反行為の拡大、③通報者の情報を守秘する義務、④体制を整備する義務(社員300名以下は努力義務)等が整備されました。

鹿児島県警内部通報事件

県警本部長が部下の警察官の犯罪行為を隠蔽しようとしたとして、元鹿児島県警生活安全部長の本田尚志氏はジャーナリストに資料を郵送しました。これに対し県警は職務上の秘密を外部に漏らしたとして氏を逮捕し、また通報先のジャーナリスト宅に家宅捜索をしてパソコンや携帯電話を証拠品として押収しました。

この事件では刑法の「犯人隠避罪」に関わる通報として保護の対象になる可能性があります。通報者が逮捕されてよい事件ではありません。

兵庫県庁内部通報文書問題

元西播磨県民局長の渡瀬康英氏が、斎藤元彦知事に対する通報文書を報道機関や一部の県議に匿名で送付しました。これに対し兵庫県は内部調査を行い、通報文書の内容を「事実無根」と決めつけ渡瀬氏を停職3か月の懲戒処分としました。しかし、その後の調査で一部の内容が事実であることが判明し、県議会において真相究明のための百条委員会が設置されました。渡瀬氏は、百条委員会で証言する直前に自殺したものです。

この事件では、2021年の知事選挙で、県職員が斎藤知事への投票を依頼する事前運動を行ったとされる部分や2025年の次回知事選挙に向けて斎藤知事が投票依頼を行ったとされる部分が公職選挙法および地方公務員法に違反する可能性があります。また、斎藤知事が企業から贈答品を受け取ったとされる部分が贈収賄の疑いがあると指摘されています。

真実は別として、通報に「真実であると信じるに足る理由」があり、他の要件を満たしていれば通報者は保護の対象です。このケースで停職3か月の懲戒処分は許されるものではありません。

まとめ

内部通報は会社にとって決して好ましいことではありません。内部通報を防ぐためには、①コンプライアンス教育の徹底と②悪い情報ほど経営者に迅速に届く風通しの良い環境、いわゆる心理的安全性の高い会社にすることに尽きます。

その上で、もしも内部通報がなされたときは、①利害関係者以外の第三者による調査の実施、②不正行為が確認された場合には、再発防止策の検討・実施、③関係者への説明と謝罪により会社の信頼性回復に努めることが急務となります。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。