損害賠償

2021年 2月

Q: ケアレスミスのより頻繁に会社に損害を与える社員がいます。そこで損害額に応じた損害賠償規定の導入を考えています。例えば損害額が1,000までは全額、10,000円までは50%+500円といった具合です。大丈夫でしょうか。

A: 労働基準法第16条の損害賠償予定の禁止規定に違反します。

労働基準法第16条では、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と規定されています。中途退職やケアレスミスによる損害の発生に対して違約金を定めたり、損害賠償額を予定したりすることは罷りならぬと法は規定しています。

法の趣旨は、違約金や損害賠償額によって労働者の退職の自由を実質的に制限する足止め策を禁止することにあるとされています。戦前、労働者の家族も含めて違約金や損害賠償金の契約により苦しめられたと言われています。戦後に制定された労働基準法では前近代的なこのような契約は禁止されることになりました。

もう一つの理由は損害賠償額をあらかじめ決めることの不合理さです。これに関しては弊事務所ホームページに「制裁と損害賠償」と題した記事を掲載していますので、少し長いのですが引用します。

例えば、皿洗いの業務をしていて食器を割ってしまったとしましょう。10,000円で購入した食器です。「食器を割ったときは、損害賠償として価格の25%を給与から天引きする。」として2,500円を天引きする規定は一見合理的です。しかし、よくよく考えてみるとおかしいのです。割った原因が、本人の故意や重大過失のときも、不可抗力のときも同じ2,500円を支払うことに合理性があるとは思えません。割れた食器にしても、目に見えないひびが入っていたかもしれません。価格10,000円と言っても、現在価値は5,000円かもしれません。そのような訳で、損害が生じたときに、その損失を本人の責任と、会社のリスク負担責任を考慮して公正に決めることが正当です。リスク負担責任とは、会社が事業をする上で当然に負担しなければならない責任です。食器を使用していれば、当然に食器は壊れることを前提に事業を考えることが求められます。

労働基準法第16条は実際に違約金や損害賠償額を請求していなくても就業規則や契約書に損害賠償額をあらかじめ記載をするだけで違反になります。罰則があり、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金です。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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