11月号 求人票と雇用条件

2022年11月(第162号)

求人票と実際の雇用条件が違っていた。こんな違いでトラブルに発展するケースが多発しています。今回は求人広告に対する法規制とトラブル事例を紹介します。

求人広告に対する法規制

職業安定法第5条の3は求人者に対して次の旨の規制を課しています。①業務内容、賃金、労働時間その他の労働条件の明示、②労働条件の変更時には書面での明示。法ではなくガイドラインですが、賃金に残業代を含む場合には、その旨を明示することを求めています。更に第65条で、虚偽の条件提示に対して6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を課しています。

愛徳姉妹会事件

原告は、雇用期間欄が空欄で定年60歳とされている求人広告を見て応募し採用されました。しかし1年後に会社から「期間満了により雇用契約を終了する」とされました。そこで原告は、社員としての地位の確認と賃金の支払いを求めて提訴しました。会社は契約時に「休職している職員の復帰までの補充人員なので『1年間様子を見させて欲しい』と説明しており、雇用契約締結にあたり雇用期間を明示、その旨を原告に告げた」と主張し争いました。

裁判所は、①求人票に雇用期間の記載がなく、60歳定年の記載がある、②補充人員であれば求人票にその旨の記載があって当然、③職業安定法は募集にあたり賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと定めており、求職者は当然に求人票に記載の労働条件を期待する。として、労働契約締結時にこれと異なる合意をするなどの特段の事情がない限り求人票の内容が雇用条件となると判じて原告の主張を認めました。(大阪地裁 H14.5.30決定)

マダムシンコ労働審判事件

読売新聞オンラインR4年10月1日版は「求人サイトで『月給35万円以上』、実際は約17万円…マダムシンコ元社員が労働審判申し立て」と題して、未払い賃金約200万円の支払いを求めて大阪地裁に労働審判を申し立てた事件を報じています。記事によると元社員はR3年3月に求人サイト「インディード」を見て、マダムシンコの工場で菓子を製造する仕事に応募しました。同サイトには「月給35万円以上(残業代含む)」と記載され、人事担当者との面談で試用期間3ヶ月後の月給が35万円と説明されました。また勤務開始1ヶ月後の雇用契約書には「基本給16万~25万円」と記され、残業代の記載がありませんでした。口頭で上司に「月給35万円」であることを確認し署名しました。しかし、試用期間中25万円であった月給が試用期間終了後に約17万円に下げられたとのことです。

労働審判は非公開のために、記事の内容は元社員の話を基にしたと思われます。よって真偽の程は分かりませんが、求人票と実際の雇用条件に相違があり、トラブルに発展したのは確かです。

まとめ

裁判所は、特段の事情がない限り求人票の内容が雇用条件になると判断することが多いので、求人票の内容は即雇用条件と考えるべきです。

求める人材に対して応募者の経験や能力が劣っていたために、正社員を契約社員にしたり、給与を少し下げたり等の雇用条件を変更することは可能です。しかし安易な変更はリスキーです。一度不採用にして、条件を変えた求人票に再度応募させるくらいの配慮が求められます。

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