2019年 5月(第120号)
法令に違反したときに会社名が公表されることがあります。公表による取引先をはじめとする社会的信用の失墜や、社員のモチベーション低下による影響は計り知れません。今回は、行政による会社名公表ついてまとめてみます。
公表の目的
行政は、法令等に違反した会社を公表する目的に、①類似事故の抑制、②社会的な制裁を挙げています。①に該当する事例の1つとして、新卒者の内定を取り消した会社名の公表が挙げられます。これは、職業安定法施行規則に基づいた措置で、翌年に就職を目指す学生・生徒に内定取り消しの危険性がある会社であることを知らせる目的としています。もっとも内定を取り消した全ての会社を公表するものではなく、2年以上連続して行われた、10名以上であった、事業活動の縮小を余儀なくされていない、取り消し理由を十分に説明していない等の会社に限定されています。その意味からも学生に対して類似事故を防止する観点からの措置と言えます。
②の制裁としての公表は、近年多くなされている措置です。ハローワークで目にする雇用関係助成金の不正受給した会社の公表は、この制裁に属するものです。会社名、代表者名、所在地、事業の概要、助成金名、金額、不正の内容等が貼り出されるだけでなくインターネットで公表されますから、顧客や取引先に知られることになり、更には取引の中止や契約の解消等の社会的な制裁となります。
公表の法的根拠
公表には、法律に基づいた公表と法律に基づかない公表があり、制裁として公表を規定している主な法令には次があります。
育児・介護休業法:育児休業の申し出の拒否
男女雇用機会均等法:性差別、婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱い
パートタイム労働法:労働条件文書の不交付、待遇の差別的取り扱い
労働安全衛生法:重大事故の再発危険
どの法令も違反があったら即公表とはしていません。まずは行政指導が行われ、それに従わないときに初めて公表を行う制度としています。
法律に基づかない例として労働基準法違反に対する公表制度があります。従来も労働基準法違反で書類送検された中で悪質性が高いと判断された事案は公表されていました。平成27年には、違法な長時間労働を繰り返し行う会社の公表を行う通達が出され、影響力の大きい会社の複数の事業所で違法な長時間が多数の社員に認められた時に公表するという基準が設けられました。その後、いくどか基準の改正がなされ、現在では長時間労働や賃金不払いの疑いで送検された会社名は公表されるようになっています。
まとめ
公表の基準が行政指導に従わなかった、あるいは書類送検された会社であるとしても、最終的な違反の確定は裁判所です。その意味で、行政が裁判所判断の確定前に会社に対して制裁を科すことの疑問は残っています。
とはいえ、現実に公表されることを防ぐことが必要です。そのためには、日ごろから法違反をしない、もし違反をしてしまったならば気付いた段階で早急に是正を講ずること、こんな当たり前のことしか方法がありません。