労働基準法に違反している就業規則や雇用契約は、その部分が無効となり労働基準法の定める基準が適用されることになっています。今回は、労働基準法と就業規則、雇用契約の優先順序の関係を整理してみます。
労働基準法は労働条件の最低基準
本来では、人と人との契約事項は当事者間で自由に決めることができるものです。例えば、物の売買では、一方がいくらで売りましょう、もう一方がその値段で買いましょう、と当事者間で合意ができればそれだけで契約が成立します。ところが、人を雇用するときには当事者間の合意は必要ですが、例え合意があっても自由に雇用契約を結ぶことができません。労働基準法により、一定の基準に達していない雇用契約はできなくされているからです。事実、労働基準法の第13条では「この法律違反の契約」と題して「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」との条文でわざわざ規定してあります。
就業規則とは
雇用契約書を交わして、これに労働条件を記載するのが正式とは言え、多岐にわたる労働条件の詳細を記載した契約書をすべての社員と取り交わすことは実務的に困難です。そこで、総括的な条件を就業規則に記載し、個別の条件だけを個々に取り交わすことが多く行われています。このとき就業規則が閲覧できる状態にあれば、例え社員が就業規則の記載事項を知らなくとも、これを知っていたと見なされます。これを就業規則の法的規範性と言います。就業規則は雇用条件の共通基準であり、個々の雇用条件はこの基準を下回ることはできないとなっています。
非正規社員への就業規則の適用
パートタイマー等の非正規社員を雇用しているのに、就業規則は正社員用だけの会社があります。もし正社員だけしか適用しない旨の記載がなければ、この就業規則はパートタイマーにも共通基準として適用されることになります。つまり、就業規則に賞与や退職金の支給が記載してあれば、パートタイマーにも支給義務が発生します。これが経営者の意と異なるのであれば、パートタイマー用に就業規則を整備することが必要です。
基準以下の雇用条件とは
時給が最低賃金より下回るとか、年次有給休暇が付与されないとかが基準以下であることは誰でも分かります。では、所定労働日数や所定労働時間が基準を下回るのはどうでしょうか。労働基準法は、過重労働を防ぐために労働時間の上限や休日数の下限を決めています。この法の趣旨から、労働基準法や就業規則の基準を下回る所定労働日数や所定労働時間での契約は違反になりません。結果として給料が少なくなることは問題にならない訳です。
雇用条件の確認を
今回は、法令と就業規則、雇用契約の優先順序を整理しました。この機会に御社の就業規則、雇用条件の確認をお勧めします。この際、基準以下か否かは法の趣旨から判断することになります。