2023年 9月(第172号)
今月の事務所通信は、「解雇通知書はカネになる」との物騒な題名で、和解金として2社から合計で4,700万円を獲得した自称元モンスター社員の話を紹介しました。以前、労働紛争によるに労働局のあっせんや労働審判、裁判による解決金を調べたことがあります。解決金は個々の事情により大きく変動しますが、労働局のあっせんで20~50万円、労働審判、裁判でも50万~300万円ぐらいでした。今回紹介した例の解決金4,000万円は破格の金額です。
20歳代で2つの会社を解雇され、裁判で合計4,700万円を獲得した自称元モンスター社員の佐藤大輝氏の体験談が話題になっています。今回は、事件の概要と解雇リスクを話題にします。
事件の概要
佐藤氏は23歳のときに美容の商社を解雇されて、20ヶ月ほど法廷闘争の末に和解金700万円を獲得しました。更に29歳のときに運送会社でサービス残業を拒否して2度目の解雇を受けました。このときは、前回の経験を活かして、「和解するならば4,000万円」を終始一貫して主張、約2年間争い最終的に解雇を撤回させ満額の和解金で円満退職に至ったものです。
本人の主張
2度目の解雇の経緯は次の様です。運送業で配車係をしていたときに会社支給の携帯電話を持たされ、突発的な事故や荷主とのトラブルに当たらされました。週休2日のうち1回は電話が掛かってきていて、この時間外の業務には給与が支払われない、いわゆるサービス残業でした。そこで、氏は上司に対して「仕事のオンとオフを切り分ける」ことを宣言しました。これに対して、総務部長と執行役員は「ちゃんと休日も電話対応しろ」と説得し、これを拒絶したところ5日後に解雇通知書を渡されました。氏としてはサービス残業を拒否したことが解雇の理由であることに納得できず、解雇撤回を求めて裁判所に訴えました。
会社の考え
会社の考えを直接的に示す資料は見つかりません。佐藤氏の話から次の様に推測します。
運送業では良くも悪くも時間外労働が多く、ドライバーでもサービス残業のケースが多くあります。ましてや配車係が事故やトラブルにサービスで対応することは当然の業務である。もし、氏だけに仕事のオンとオフを切り分けることを許したら、お客さまの迷惑になるし、周りの社員にシワ寄せが生じることに懸念があった。
また氏には前々から職場の秩序を乱す行為があった。例えば有給休暇で海外旅行から帰ってきたときも、周りにお礼を言わなかったし、土産を女性社員にだけ買ってくる様なところがあった。
職場の秩序を乱す者は排除することが会社のためとの考えが根本にあったと思われます。
解雇のリスク
労働契約法第16条で解雇は厳しく制限されています。「気に入らないから解雇」は論外としても、就業規則の規定に該当していても無効になることはよくあります。無効とは解雇が元々なかったことですから、社員資格はあり続けます。給与はノーワーク・ノーペイの原則で無給と考えたいところですが、違います。民法第536条第2項の規定で、会社の都合で働けなかった期間は無就業でも給付いわゆるバックペイを受ける権利があるとされています。つまり裁判が長引けば長引くほど、解雇が無効となると会社の負担が増えることになります。この給付に弁護士費用や慰謝料が上積みされることがあり、更に負担は増えます。裁判に負ければ社内外の信頼にも傷が付くことにもなり、ダメッジはより大きくなります。
まとめ
今回の事例の和解金額4,000万円は従来の相場からすると極端です。ですが実際にこの金額での解決例があったことは重く捉えた方がよいでしょう。どうしても解雇が必要な事態が生じることはあり得ます。そのときは、是非とも事前に専門家に相談して貰いたいものです。