4月号 マイカー通勤リスク

2022年4月(第155号)

マイカー通勤は会社には責任がないとの考えがあります。原則では正しいのですが、損害賠償を課せられることもあります。今回はマイカー通勤の会社へのリスクを紹介します。

マイカー通勤の会社責任

社員が通勤時に事故を起こしても業務中でないので会社責任は問われないことが原則です。民法715条の使用者責任の規定で会社が損害賠償の責任を負うのは業務中とされています。

ところが自動車損害賠償保障法第3条の運行供用者と判断されたときは違います。この規定は被害者救済のために民法の特別法として定められたものです。運行供用者とは聞きなれない言葉ですが、自動車の運行をコントロールでき、かつ運行により利益を得ている者とされています。通常は自動車の保有者ですが、会社もなることもあります。会社が運行供用者になると人身事故時に損害賠償の責を免れるためには会社側が無過失であることを立証しなければなりません。

運行供用者責任を認めた裁判例

工事現場からマイカーで帰宅途中に反対車線にはみ出し、対向車と激突して運転者を死亡させた事故です。被害者が加入していた保険会社は遺族に2,000万円の保険金を支払い、加害者の勤務している会社に対し同額の求償を求めました。

一審の松山地方裁判所は、事故は業務中ではなく、会社は運行供用者とは認められないとして請求を棄却しました(判決:S60.10.25)。しかし2審の高松高等裁判所は、会社がマーカー通勤を容認していたとして、①車の運行に指揮監督ができる立場にあったこと、②マイカー勤務により利益を得ていることから運行供用者と判断し、保険会社の求償に応ずる義務があると判示しました(判決:S61.9.30)。最高裁判所も同様の判断をしました。(判決:H1.6.6)

この他にも運行供用者の判断を争った裁判があります。マイカー通勤への関りが大きいほど運行供用者と判断される傾向にあるようです。

リスク低減の方策

ベストな方策はマイカー通勤を全面禁止とすることです。しかし認めなければならないときは次のリスク低減の方策を検討することになります。

  1. マイカー通勤は原則禁止として、やむを得ない事情の社員だけの許可制とする。
  2. 対人・対物保障無制限等の任意保険加入を許可条件とし、年に一度は確認する。
  3. 運転記録証明書や無事故・無違反証明書で重大な事故・違反がないことを確認する。
  4. マイカーを業務に使わせない。
  5. 運転免許の有効期間を管理する。
  6. 交通安全研修を受けさせる。
  7. ドライブレコーダーを設置する。
  8. マイカー通勤手当やガソリン代、駐車場等の恩恵を与えない。

マイカーを業務でも使用するときは、保険が業務中の事故をもカバーする必要があります。

まとめ

業務中、通勤中に関わらず交通事故から社員を守ることは会社の責務の1つです。そのためには交通安全研修や運転適性検査をはじめとして会社のでき得る方策を採って交通安全意識を高めることが求められます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。