5月号 降格・降級

2022年 5月(第156号)

人事評価に因るにしても、懲戒処分に因るにしても降格・降級はトラブルに発展することがあります。今回は、降格・降級の法的な留意点を紹介します。

降格・降級とは

降格は、社員の地位や役職などを下げることです。例えば部長から課長、主任から平社員に変えることです。降級は、地位や役職はそのまま、等級を下げることです。例えば、参事1級から参事2級に変えることです。降格・降級には、①人事権に因るものと②懲戒処分に因るものがあります。どちらにしても自尊心が傷つけられたり、給与が関係したりするために納得できない社員とトラブルに発展する可能性があります。

裁判になると、降格・降級が一般的には権限や賃金等の労働条件の低下を伴うことから慎重な判断を示されることが多くなります。

人事権に因る降格・降級

一般論として人事権の行使は基本的に使用者の経営上の裁量範囲とされています。誰をどの部署に配置して、どのような権限を与え、どのような処遇をすることが経営上最も有利であるかを決定して実行するのは使用者の役割です。降格・降級も人事権に因るものですから、「権利の濫用」と判断されない限り有効です。

しかし例え裁量範囲であるとは言っても合理的な理由がない、あるいは社会通念上相当でない降格・降級は「権利の濫用」と見なされます。ここで「合理的」とは、第3者が道理にかなっていると納得できることです。①業務上の必要性、②能力・適性の欠如等の社員側の問題点、③人事異動の運用状況等から判断されます。感情的な、あるいは本来と目的と違う意図のもとに行う降格・降級は「権利の濫用」で無効となります。

「社会通念上相当でない」とは、「そんな極端なことは許されない」と判断されることです。部長から平社員へのいきなりの降格は、事情にもよりますが、通常は「社会通念上相当でない」と判断され、無効となる可能性が高いと思われます。

就業規則等に人事制度を明示し、これに沿って人事異動を行ったり、これを社員に周知したりすることで、「権利の濫用」と判断されるリスクを減らすことができます。

懲戒処分による降格・降級

懲戒処分による降格・降級は法令違反の恐れがあり、著者はこの制度の採用には反対です。降格・降級が給与の低下を伴うと、減給制裁の制限を定めた労働基準法第91条との関係が生じます。法では一回の違反行為に対する減給は平均賃金1日分の半額以内に制限されています。例えば月の給与が30万円のとき、平均賃金は1万円ぐらいです。制限額は半分の5千円ぐらいです。降格・降級により、例え1~2%の減給でも直ぐに5千円を超えて法令違反となります。

横領やセクハラ等の就業規則に違反する行為を行った資質の社員は、「その地位や役職が相応しくない」ならば人事異動の降格や部署異動で済みます。あえて法令違反の恐れのある懲戒処分に因る降格・降級を行う必要はありません。

まとめ

降格・降級は常にトラブルの芽を孕んでいます。やむを得ず行うときには納得感が大事です。就業規則や公平な人事評価制度の整備を行い、これを的確に運用することが求められます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。