2024年 9月(第184号)
今月の事務所通信は、「退職勧奨」を取り上げました。問題社員の相談に対して、「解雇はリスキーなので」と解雇を回避するようなアドバイスを今まで何回かさせて頂きました。退職勧奨の法的性格や行うときの注意点を取り上げました。
能力不足や職場の雰囲気を悪化させる等の問題社員あるいは会社の業績悪化に伴う人員整理を理由に社員に辞めてもらわなければならないことがあります。このときにハイリスクの解雇に対し、ローリスクの退職勧奨の選択肢があります。今回は、退職勧奨の法的性格や行うときの注意点を取り上げます。
退職勧奨とは
会社が社員に対して退職を促す行為が退職勧奨です。これを受けた社員が納得した上で退職を申し込み、会社がそれを承諾することで退職の合意が成立します。これに対して解雇は会社の一方的な雇用契約の解消です。一方的な雇用契約の解消に対しては不満が発生しやすく、労働トラブルに発展することも少なくありません。
退職勧奨の準備
問題社員に対しては、具体的な問題行動や改善の見込みがないことを説明する準備をします。人員整理のときは、その社員を人選した基準を説明できるよう整理しておきます。いずれの場合でも社員からの質問を想定し、それに対する回答を準備します。退職経験がないときは、雇用保険や健康保険の手続き方法も分らないことが多く不安を感じます。これらの手続き方法を伝えられるように準備しておくことも大事です。
退職をスムーズに導くために、対象者が受け入れやすい退職条件を、例えば退職金一時金や退職金の増額、有給休暇の買い取り等を検討します。
退職勧奨の進め方
退職勧奨もやり方を間違えると労働トラブルに発展することがあります。スムーズに進めるためには、次のポイントに注意します。
- 具体的な説明と条件の提示:退職を勧める理由を丁寧に伝えます。同時に、準備した退職条件を提示します。また疑問や不安にも丁寧に対応し理解を促します。
- 検討期間の設定:退職勧奨を受けた社員は突然のことでショックを覚えます。提案を受けて自由な意思で退職を決断できる時間を与えます。
- 違法な退職勧奨を避ける:退職勧奨の場は話し合いの場です。社員の人格を否定する言動や机をたたく等の威圧的な行為は許されません。従業員に対して不当な心理的圧力をかけたり、名誉感情を害したりするような発言を避けます。長時間あるいは度を越えた回数の退職勧奨は強要とみなされます。社員が自発的に退職を決めるように促すことが重要です。
- 録音やビデオ撮影:社員の同意を得て行います。録音等により、退職勧奨が公正かつ適切に行われたことを示すことができます。また後日トラブルに発展したときに、双方の発言や態度を確認するための証拠として利用できます。
- 退職合意書の締結:退職の意思を確認したならば、退職合意書を締結します。退職届を提出してもらうこともありますが、退職合意書をお勧めします。合意書には退職条件を明記します。
社員からすると、退職勧奨と解雇の区別があいまいです。退職勧奨はあくまでも自主的な退職であることを念頭に、円満な合意を目指します。
まとめ
根っからの問題社員もいますが、能力不足あるいは職場雰囲気を悪化させる社員といっても単に会社とミスマッチしているだけかも知れません。人員整理のケースでも言えますが、双方が結果的にハッピーになれるような退職勧奨を念頭に進めればトラブルに発展することはありません。