11月号 待遇差の裁判例

2020年11月(第138号)

有期契約社員の待遇差が無期契約社員と比べて不合理であるとして訴えた裁判の最高裁判決が今年10月に珍しく5件ありました。不合理とされた案件、不合理とされなかった案件と個々のケースで判断されることが示されました。
今回は、裁判例の概要と、会社の取るべき方策を探ってみます。

メトロコマース事件 

東京メトロの駅構内売店に従事していた契約社員が正社員には支給される退職金が支給されないのは不合理と主張して損害賠償を求めたもの。
最高裁は、退職金は職務遂行能力や業務範囲、責任の程度等を踏まえた賃金の後払いや継続的勤務に対する功労報償等の複合的な性質を有するものと認定し、正社員と契約社員の業務範囲や責任の軽重により両者には退職金の有無に関する労働条件の相違があっても不合理でないと判断しました。この判断には契約社員に無期契約に職種を変更できる登用制度があることも考慮されました。
ただし1名の裁判官は正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1すら一切支給しないことを不合理とした東京地裁の判断を支持する反対意見を述べています。
契約社員への住宅手当や永年勤労褒賞の不支給を不合理とした地裁の判断は認められました。

大阪医科薬科大学事件 

薬理学教室の事務職アルバイト職員が正職員と給与、夏季特別有給休暇、私傷病中の欠勤手当等に差があったのは不合理と主張して1,100万円余の損害賠償を求めたもの。
最高裁は、正職員とアルバイト職員とでは業務の難度や責任の程度が異なり、前者は人事異動も行われていたことを考慮すると、アルバイトに賞与を不支給としたことは不合理でないと判断しました。このケースでもアルバイトに正職員への職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたが考慮されました。
夏季特別有給休暇の待遇差は不合理、私傷病中の欠勤手当の待遇差はアルバイトが長期雇用を前提としているとはいい難いために不合理でないと判断しました。

日本郵便事件 

東京、大阪、佐賀で勤務していた時給制契約社員が、それぞれ私傷病中の有給休暇、年末年始勤務手当、夏期・冬期休暇の待遇差は不当だとして損害賠償を請求したもの。
最高裁は、年末年始勤務手当、夏期・冬期休暇の待遇差は不合理と判断しました。また時給制契約社員が繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく長期の勤務が見込まれていることを考慮して、私傷病中の休暇も日数はともあれ無給であることは不合理と判断しました。

まとめ 

令和2年4月施行のパートタイム・有期雇用労働法第9条は、パート社員や契約社員であることを理由とした給与その他の差別的取扱いを禁止しています。社員に対する待遇に関する説明義務も強化されております。判例を見て、賞与と退職金は待遇差があっても大丈夫と判断するのは危険です。個々のケースで判断されます。待遇差があるならば、その根拠、理由を明確にしておきます。
会社は基本給、各種手当、休暇制度その他の待遇に関して自社の状況を調査・確認し、理由の乏しい待遇差は早急に解消することが必要です。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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