3月号 不利益変更の合理性

2023年 3月(第166号)

契約中の労働条件を会社の都度で一方的に変更することはできません。しかし変更の必要性に合理性があるときに限り、社員に不利益な変更でも認められることがあります。今回は、そのような不利益変更が認められた裁判例を紹介します。

生理休暇手当の減額

T社の就業規則では「生理休暇を必要日数だけとることができ、そのうち年間24日間は有給」としていました。ところが、生理休暇の取得数が年配者を含めて多いことや、取得日が土日曜日や休日前後に集中していることから取得の乱用が疑われました。そこで会社は、手当額を基本給1日分の68%、手当を月に2日を限度とする改正案を組合に提示して交渉しましたが、同意を得ることができないままに就業規則を改正しました。
裁判所は、①生理休暇の濫用があったと認められる、②生理休暇の取得を困難にするものではない、との理由で「変更には合理的な根拠があり、更に内容も合理的」と判じて変更を認めました。(タケダシステム事件、最高裁S58.11.25)

年功型賃金制度から成果主義制度への移行

電磁環境試験機の専門メーカーであるN社は海外メーカーとの競争激化で売り上げが減少し始めていました。そこで生産性向上による業績の回復を狙い、従来の年功序列的な賃金制度を職務給制度と成果主義からなる新賃金制度へ移行する案を組合に提示しました。数回に及ぶ団交で基本部分は合意したものの、年齢給の一律付加の部分はどうしても合意に至りませんでした。
裁判所は人事考課の結果によっては賃金額が減少する可能性があることから不利益変更に該当するとしながらも、①賃金原資総額を減額していない、②賃金額決定の仕組み、基準を変更するものであり人事評価の結果次第で昇格も降格もあり得る、③自己研鑽による職務遂行能力等の向上により昇格、昇給する機会が平等にある、との理由で人事考課査定制度が合理的なものであれば、賃金制度の変更内容もまた合理的であると判じて変更を認めました。(ノイズ研究所事件、東京高等裁H18.6.22)。

業績不振による給与減額

S社は株価や債権格付けの低下など、企業評価の著しい低下により資金調達に支障の恐れがありました。会社は事業再構築の一施策として在籍一般社員全員を対象に2年間の給与1 5%減額を4つある労働組合に提示して協議に入りました。多数組合とは合意に達しましたが、1つの少数組合と合意に至らないまま賃金規程を改正しました。
裁判所は、①再構築策の策定• 実施は問題状況の対応策として相応の合理性を認められるものである限り企業経営に携わっている専門家の関与の下で形成された経営判断として尊重されるべきものである、②2年間の時限的な措置としての賃金減額は適切なものである、として変更を認めました。(住友重機械工業(賃金減額)事件、東京地裁H19.2.14判決)

まとめ

不利益変更は原則として認められるものではありませんが、例外的に理由に合理性があるときに限り認められることがあります。あくまで例外です。たとえ合理的な理由があるとしても社員と会社の信頼関係を壊したり、社内の雰囲気を悪化させたりすることは極力避けなければなりません。変更の必要性を丁寧に説明した上で、社員からの質問や疑問点に対して誠意ある回答を通じてトラブルにさせないことが肝要です。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。