2013年8月(第51号)
消費者庁が景品表示法に基づく措置命令をA書店に発した事件では、内部告発をしたとする元社員が懲戒解雇されたことが報じられ、話題になっています。今回の事件を、内部告発を保護する公益通報者保護法の観点から考察してみます。
事件の経緯
消費者庁は平成25年8月20日付けでA書店に対して「懸賞の誌面上に記載された当選者数を下回る数の景品類の提供を行っていた」として不当景品類及び不当表示防止法に基づく措置命令を発しました。これに応えるように、不正のあった雑誌でプレゼント担当を4年以上務めていた元社員が、自分が「懲戒解雇されたのは社内で不正を訴えていたため」と解雇撤回を求めて提訴する動きを見せました。A書店は、懲戒解雇の理由を「多数の読者にプレゼントを発送せず、不法に窃取したためである」と真っ向から反論しました。
公益通報者保護法とは
公益通報者保護法は、労働法の1つとして位置づけられ、平成18年4月1日から施行された比較的新しく、第11条までしかない小さな法律です。内部告発者に対する解雇や減給その他不利益な取り扱いを無効とする形で、労働者の保護を図ったものです。内部告発の対象は刑法や労働基準法その他の441の法律に違反しているものに限り、通報先も、①会社内部、②行政等の取締り当局、③マスコミや消費者団体等としています。③の外部への通報は、間違えたときには会社に大きな損失を与える危険があるために、内部告発者に次のような厳しい要件を課しています。
①行政等に通報をすれば解雇等の恐れがある、②会社内部に通報すると証拠等が隠滅される恐れがある、③正当な理由がないのに行政に通報しないよう要求された、④会社に書面で通報したのに20日間を経過しても、調査を行わない、⑤急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある、のいずれかに該当するときです。
事件の考察
元社員の主張をもとに公益通報者保護法に照らすと次のようになります。元社員は、不正を止めるように会社に訴えたとあり、この件は法に規定している「不当景品類及び不当表示防止法」違反容疑ですから対象法律となります。通報先として第一に会社内部を選び、次に消費者庁に訴えたのであれば、違反を信ずるに足りる相当の理由がありさえすれば保護要件を満たします。その他、公益のための要件もクリア出来ていますので、元社員は法の保護を受けることになります。
今後の展開
争いが法廷の場に移された場合、A書店の主張が認められることはかなり困難と言わざるを得ません。「不法に窃取した」ことの立証責任はA書店にあります。立証できなければ、内部告発が解雇理由と認定される可能性が高く、公益通報者保護法に基づいて解雇は無効となるでしょう。
内部告発に対処する
外部への内部告発は会社の信頼を大きく損ないます。一番の方法は経営者が不正を絶対に許さないとの立場を明確にすることです。適切に不正を通報する体制を整備することも必要です。通報先に信頼できる弁護士や社会保険労務士を指定しておくことも有効でしょう。もっとも、これは社員と経営者との信頼関係が醸成されていることが前提条件であることは言うまでもありません。