7月号 情けが仇に

 

経営者の、社員思いの行為が時とすると空回りすることがあります。今回は、情けが仇になったケースを3例紹介します。

試用期間中の解雇

小さな飲食店での話です。パートタイマー募集にAが応募して来ました。オーナーは内心、Aは接客には向かないと思いつつも、慣れれば何とか使いこなせるだろうと見習い1ヶ月の条件で採用しました。果して、初日から不安が的中。愛想がないとか、働きがわるいのはまだ良い方でした。テーブルにスープをこぼし、客に苦情を言われると、逆に怒鳴り付けたりしました。オーナーはそのたびに注意をしました。しかし、10日たって変わらず、とは言っても、いきなりのクビではかわいそうと、「このままではクビだよ」とたしなめました。翌日から来なくなりました。
ところが1週間後、Aは悪びれた様子もなく顔を出しました。働きが悪い上に無断欠勤。さすがのオーナーも復職は認められずに「クビ」を言い渡しました。すると不当解雇だの訴えてやるだのと罵った挙句、30日分の解雇予告手当を請求してきました。
既に入社から14日を超えていました。社長はAに情を掛けないで10日目の段階で断固クビにしておけばよかったと、反省しました。

条件付きの解雇予告

一般家庭に耐久消費財を販売する会社での話です。Bはテレホンアポインター。Bが往訪の承諾を取った家庭に、営業マンが売り込みします。Bは一生懸命に電話を掛けるのだが、1ヶ月経っても2ヶ月経っても一向に往訪の承諾を取れません。しびれを切らした社長だが、いきなり解雇するのはむごいと思い、「成約はできなくとも良いから、来月末までに往訪の承諾を1件取ること。できなければ、そのときはクビだ。いいな。」と強引に約束させました。努力の甲斐もなく、期日がきました。社長は約束だからといくばくかの餞別を包んでBを見送りました。
1ヶ月程してBから手紙がきました。近況でも報告して来たかとご機嫌で開封すると、「即時解雇に伴い30日分の解雇予告手当を下記期日までに支払うこと、支払わなければ法的手段に訴える」との請求書。労働基準監督官に条件付きの解雇予告はダメと諭され、「1ヶ月後に解雇しても同じだった」と悔やみながらも指導に従いました。

支給理由あいまいな手当

パンの製造販売をする個人企業での話です。社長は社員思いで知られていました。社員も良く働きました。季節によっては、朝早くから夜遅くなる月もありました。そんな月は、特別精勤手当とか、家族報恩手当とかを増額したり、○○ギフト券を支給したりしました。古株の社員はそれが残業手当に相当する、いや、それを上回る額であることをよく知っていて納得していました。
あるとき元社員から残業代不払いの訴えがなされました。色々な名称の手当がありましたが、どれも残業手当に結び付く手当ではありません。就業規則に基づいて支給している訳でありませんから、残業手当の支給を裏付ける根拠がありません。結局、支払った手当をすべて基礎額に算入して、残業手当を別途支払うはめになりました。

ビジネスにはビジネスのルールで

経営者には、社員に対する優しさや思いやりが必要です。と同時に、それに劣らず経営者としてのビジネスのルールの原則に則った毅然たる態度・決断が求められます。

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