8月号 社員の守秘義務

2019年 8月(第123号)

職務専念義務や競業避止義務と同じように、社員には雇用契約に当然含まれる義務として守秘義務が課せられています。
今回は、守秘義務の法的側面、裁判例、違反の未然防止策等を紹介します。

守秘義務の法的側面

弁護士、医師にはクライアントや患者に関する守秘義務が課せられていることはよく知られています。公務員もまたしかりです。余り知られていませんが、社会保険労務士にも社会保険労務士法第二十一条で、「正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。」と規定され、違反に対しては一年以下の懲役又は百万円以下の罰金が課せられます。
このように特定の業種に従事する者や公務員に対しては、法律で守秘義務が課せられています。それ以外の人は、企業の営業秘密を不正に使用したり開示したりすると不正競争防止法により罰せられることがあります。この対象は、あくまで営業秘密であって、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」とかなり狭く限定されています。社内の情報がすべて営業秘密になる訳ではありません。
では、営業秘密に当たらない情報を守秘する義務は課せられているのでしょうか。答えは、Yesです。雇用契約には信義則上、「社員は会社の利益を不当に侵害してはならない」義務があり、営業秘密以外の秘密であっても、これを漏らさない義務が付随しています。

守秘義務違反の裁判例

業務秘密を大量に持ち出したことで解雇された元社員が解雇の無効を主張した裁判がありました。会社のコンピュータに保存されていた約6,000件の電子情報をUSBメモリーおよびハードディスクに無断でコピーし自宅に持ち帰っていたものです。この中には会議資料や取引先から守秘義務を課さられていた資料が含まれていました。
元社員は、持ち帰った資料は「秘密情報」ではないと主張しました。裁判所は「漏洩した場合に事業運営に不利益を与える可能性のある情報は、有形、無形、原本、写しの別を問わず、また社外から入手した情報を含めて」秘密に値するとして元社員の守秘義務違反を認めました。(東京地裁H29.1.23)
会社の不正行為に対する公益通報例はありますが、ここでは省略します。

違反の未然防止策

入社時等に、守秘義務誓約書を求める会社さんは多くあるでしょう。守秘義務は雇用契約に元々付随する義務だから、誓約書を改めて求める必要はないとの考え方もありますが、情報漏洩の未然防止の観点から意義は十分にあります。問題は、その内容とタイミングです。入社時だけに、単に「会社の秘密を開示、漏洩もしくは使用いたしません」と具体性のない内容の誓約書であれば実効性は期待できません。新入社員も部長級の社員も同じ内容であることはあり得ません。昇進や配転に合わせて権限や取り扱う情報が変わります。それに合わせて秘密とする対象や範囲、内容を明確にすることが違反防止の実効性を高めます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。