3月号 年次有給休暇の時季変更権

2016年3月(第82号)

 年次有給休暇は請求時季に与えることが原則ですが、例外的に取得時季の変更を求めることが出来ます。今回は、この年次有給休暇の時季変更権についてまとめてみます。

時季変更権

時季変更権は会社が有する権利です。年次有給休暇は請求時季に与えることが原則ですが、会社の正常な事業の運営を妨げるときは、他の時季に変更するよう求めることが出来ます。もっとも、これは例外的な措置ですので、行使するには、①年次有給休暇を取得されると事業が回らなくなること、②代替要員の確保が困難であること、の2要件が満たされなくてはなりません。

認められる時季変更権

時季変更権の行使の有効性に関しては、裁判で争われたことがあります。次のケースでは会社の主張が裁判所によって認められています。
①長期の休暇請求:通信社の記者が自主的な取材のために1ヶ月の休暇を請求したところ、会社はこれを拒否した。裁判所は、長期の休暇になればなるほど代替要員を確保することが難しくなるとして、後半部分の休暇請求に対して時季変更権を認めた。
②研修期間中の休暇請求:研修期間中に、受講者が年次有給休暇を請求した。裁判所は、欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り、年次有給休暇取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を認めた。このケースでは代替要員確保は問題にならない。
この他に、③年末などの特に忙しい時期の請求、④休暇当日の請求、⑤多人数が同じ日の請求、⑥嫌な業務を忌避するための請求のときの時季変更権の行使は認められる可能性が高くなります。

認められない時季変更権

慢性的に人手不足の会社が忙しいとの理由で時季変更権を行使しても、当然ながら認められません。また退職日の決まっている社員が、退職前の全ての勤務日に年次有給休暇を請求すると、退職後に変更することができないために時季変更権を行使できないと解されています。

労働基準監督署の行政指導

年次有給休暇を請求したにもかかわらず、これを欠勤扱いすることは労働基準法違反として行政指導の対象となります。しかしながら、時季変更権を行使して、それに従わないときに欠勤扱いすることは違反ではありません。労働基準監督署は、時季変更権の有効性を判断することはありませんので、時季変更権に絡んで行政指導を受けることはありません。

時季変更権行使のために

時季変更権の行使は、例外的な取り扱いです。乱用することがあってはなりません。それでも、行使の必要なときがあります。そのときは、上記の2要件を十分に説明して、納得させることに意を用いることです。また、あらかじめ就業規則に、会社はこの権利を行使する旨を規定しておく必要があります。
年次有給休暇の取り易い職場とすることは規模の大きくない会社にとって難しいものです。この問題解決のために、年次有給休暇の計画的付与の導入を勧めます。

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