(第46号)
社長にとって、労働基準監督署は身近な存在だけれど、できれば接触を避けたい役所の1つでしょう。今回は、そんな労働基準監督署の監督業務を中心に整理してみます。
労働基準監督署の位置づけ
厚生労働省→労働局の下部組織として都道府県内に複数設置されています。多くの労働基準監督署には監督課(方面と言っているところが多い)、労災課の他に安全衛生課と業務課があります。
労働基準法、労働安全衛生法等を扱っているのが方面です。方面には専門職員として労働基準監督官(以下、監督官と略す)が配置され、日々、監督業務に当たっています。
労働基準監督署は中立な立場で労働基準法や労働安全衛生法を順守させるための役所です。社員の味方をするための役所ではありません。
会社への立ち入り
監督官は、労働基準法や労働安全衛生法等の労働関係法令に基づいて、会社に立ち入り社員の労働条件や健康管理状況等について調査することができます。会社への立ち入りには、①行政の年度計画に基づき実施される定期監督、②重篤な労働災害が発生したときの災害時監督・調査、③社員等の訴えに基づき実施される申告監督があります。
監督官は、証拠に基づいて労働基準関係法令違反を確認します。訴えがあったからと言って、一方の意見や見解だけで労働関係法令違反と判断することはありません。
労使双方の意見の食い違い
申告監督のときに、双方の意見や認識が食い違うときがあります。例えば、元社員は即日解雇されたので解雇予告手当30日分の支払いを主張し、社長は解雇していないと主張するときです。このとき、監督官は、まず解雇事実の有無を確認します。元社員には何時、誰に、どのように解雇を通知されたのかを確認します。書類があれば書類の提示を求めます。社長に対しても、本社員の供述に基づいて確認を取ります。
双方の主張が平行線を辿り、その他の証拠がなければ、即日解雇の事実確認は不能となり行政指導はできないことになります。
是正のための行政指導
労働関係法令の違反が確認されると、是正のための行政指導が是正勧告書の交付により行われます。是正勧告書には、違反項目と是正期限が記載されています。この指導は命令ではありません。納得ができなければ従う必要はありません。とは言っても労働基準法は罰則のある法律です。違反が悪質と判断されると監督官は社長を逮捕することも、検察庁に書類送検することもできます。
現実に是正勧告書を交付されたときは、その指導に従い、期日までに改善状況を報告します。納得がいかない是正勧告書にも、その旨を記載した文書の提出は必要です。
立ち入りに臨むには
期日を通告しての立ち入りと、通告なしの立ち入りがあります。いずれにしても慌てずに冷静な応対が求められます。調査を妨害したり、虚偽を申し立てしたり、社員に虚偽の供述を強いたりすることは決して行ってはなりません。
期日が分かっているときは労働関係法令に精通した社会保険労務士に立ち会いを依頼することがお勧めです。立ち入り時のアドバイスや最適な是正方法の作成支援を受けることができます。