2月号 (続)労働法を用いた詐欺まがい行為

労働法規は、労働者を弱者として保護するために制定されています。稀に、この仕組みを悪用していると思われる詐欺まがいの行為をする者がいます。今回も前回に続きそんな例を紹介しますが、舞台は「あっせん制度」です。

あっせん制度とは

事例を紹介する前に「あっせん制度」を簡単に説明しておきます。「あっせん制度」は、会社と社員とのトラブルを裁判によらないで解決するために設けられた制度です。裁判では白黒を裁判所が判断して結論を導くのに対して、「あっせん」では学識経験者であるあっせん委員が当事者間の調整を行い、双方の合意のもとに円満な形で解決を図ります。裁判が多くの時間と労力を要するのに比べ、「あっせん」の手続きは簡単です。埼玉労働局で行っている「あっせん」は費用が掛りません。また半日だけのあっせんの実施で解決が図れるのも特徴の一つです。あくまで双方が歩み寄って解決を図ることが目的ですので、双方が自分の主張を譲らないと、解決しないことがあるのは事実です。また、法的強制力がないので、「あっせん」に参加する、しないはあくまで当事者の判断に任されています。

事件の経緯

A社で事務員として30代の女性Sを雇いました。A社は家族的な雰囲気の会社ですが、Sはどこかよそよそしくて、他の社員と話をしませんし、そうかと言って仕事を熱心にする風でもありませんでした。半月ほど経ったころに歓迎会を催しました。この席でSは、お酒が入った勢いもあり男性社員にからんだり暴言を吐いたりしました。そのあまりの下品さに、男性社員の一人が止める様に声を掛けると、バッグを振り回して怒りを爆発させる始末でした。そんなこともあって歓迎会は白けムードで閉宴しました。

翌日以降も、なかなか仕事をしている感じがしません。A社長がSを別室に呼んで話を聞こうとすると、Sは急に「それなら辞めさせて頂きます」と言うや荷物をまとめて帰ってしまいました。

セクハラで「あっせん」申請

しばらくして労働局から、Sがあっせん申請をした旨の通知が届きました。申請内容は、①不当解雇されたこと、②歓迎会の席でセクハラされたこと、③歓迎会でタバコを投げつけられブランドのバッグに焦げ跡が付いたこと、④このため慰謝料と損害賠償金の計120万円の支払いを求める、とのものでした。

あっせん案

「あっせん」への参加を打診されたA社長さんは、会社に非はないもののトラブルを長引かせることは得策でないとして「あっせん」を受けることにしました。埼玉労働局の「あっせん」では双方が直接顔を合わしません。あっせん委員が別々に事情聴取をします。あっせん委員に事実を伝えると、あっせん委員は納得したようでした。それでも裁判となると時間的にも労力的にも負担になるからと、○○万円での和解案を示し、和解への協力を要請しました。A社長さんは、「いい勉強になった。これはその代金だ」としてあっせん案を受諾したそうです。ブランドバッグにどのような焦げ跡が付いたのかを聞くと、証拠のバッグは既に捨ててしまったから分からないと、あっせん委員は苦笑い混じりで答えました。

A社長さんの判断は適切でした。「不正は一切許さない!」は正しいでしょう。しかしながら、詐欺まがいの者に付き合って、これ以上に社長の貴重な時間を消費することは馬鹿げていましたから。

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