2016年4月(第83号)
入社時の必要書類の一つに「身元保証書」を求めている会社があります。社員の故意や過失により会社が損害を被ったときに損害賠償を請求するためのものですが、「身元保証書」を貰っただけで安心しては駄目です。今回は、身元保証を法的側面から考えてみます。
損害賠償権とは
社員が故意や過失によって会社の利益を損ねたときに、その損害賠償を社員に求めることができることは民法の第415条の「債務不履行による損害賠償」や第709条の「不法行為による損害賠償」に規定されています。さらに、その社員が弁済できないときに、保証人に賠償義務のあることが、同じく民法の第446条から第465条までの「債務保証」のところに規定されています。
このように、民法では損害賠償の請求権を広く認めています。
身元保証に関する法律
民法の規定をそのまま身元保証人に適用すると、身元保証人に酷な義務を課すことになります。そこで民法の特別法として制定されたのが、身元保証法(身元保証に関する法律)です。この法律は全部で僅か6条から構成されている短い法律です。
①有効期間:期間を定めないときは3年、定めても最長で5年と有効期間に制限がある。②更新後の有効期間:更新後の有効期間も最長で5年となる。③通知義務:社員が業務に向いていない、または不誠実で、身元保証人の責任問題を引き起こす可能性があるときや、業務または勤務場所が変わり、身元保証人の責任が重くなったり、その監督が難しくなったりしたときは、ただちに身元保証人に通知する義務がある。
④契約解除:身元保証人は、上の通知を受けたときは期間の途中でも契約を解除できる。
⑤損害賠償額:裁判所が、身元保証人の損害賠償額を決定するときは、①会社の監督責任、②身元保証をするに至った事由と会社の説明、③社員の任務、④その他一切の事情を考慮する。
⑥この法律に反する契約は無効となる。
このように、万が一の時に身元保証人に損害賠償を請求するためには、単に「身元保証書」を受け取るだけでなく、身元保証法に規定されている条件を全てクリアしていなければなりません。
労働基準法による規制
労働基準法は、その第16条で損害賠償額を予定する契約を禁止しています。この禁止は社員本人とはもとより、身元保証人との契約も禁止しています。損害賠償額となっていますが、損害額の50%を弁償すると言うように率を決めることも禁止されています。違反に対しては、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課せられます。
労働トラブルを避けるために
会社が社員やその身元保証人に損害賠償を請求する事態は決して望ましいことではありません。損害が生じる前に、言い古されたことですが、①社員教育をして、②危険の芽があれば指導をして改めさせ、③改められなければ職場を変え、④それでも駄目なときは会社から排除することです。
そのためにも、それを可能とする就業規則の整備が重要になります。