10月号 業務命令の有効性

2019年10月(第125号)

「業務命令だ!」には反論を許さない響きがあります。しかしながら、全ての業務命令が有効とは限りません。今回は、業務命令の法的根拠及びその有効性の範囲について考えてみます。

業務命令の法的根拠 

雇用契約とは社員が仕事を行い、会社はその対価として給与を支払う契約です。契約内容は労働基準法や労働契約法その他の法令に反しない限り両者の意思により自由に定めることができます。具体的には就業規則の規定が契約内容になります。
個々の社員の仕事の内容や進め方は事業の目的・計画に基づいて会社が定め、これを業務命令として社員に下ろします。つまり仕事を遂行するために必要な命令が業務命令です。
この視点で具体例を見てみましょう。

人事異動 

 業務を最適に行うための人事異動は会社の裁量の範囲であり、原則として自由に社員を配置し仕事を割り振ることができます。ところが、次のケースでは人事異動が人事権の濫用として無効になります。①社員やその家族に大きな犠牲を強いるとき、②懲戒的なとき、③辞めるように仕向けるとき。①は例えば配偶者が病気で、転勤を伴う人事異動に応じると家庭が崩壊する危険があるようなときです。たとえ、会社に合理的な理由があっても人事権の濫用と判断されることがあります。

風邪に罹った社員の自宅待機命令 

幼い子供や高齢者、病人を預かっている職場では、感染を防ぐ目的で例えば風邪に罹った社員は自宅待機を義務化していることがあります。就業規則にその旨の規定があれば、合理的でありかつ契約内容ですから命令自体は有効です。有効ですが、感染を防ぐ目的は会社都合なので、労働基準法に規定されている休業手当の支払いは必要です。ただし結核等の感染症法による就業制限に当たるときは会社都合でなく、休業手当の支払いは不要です。

帰宅後や休日中の呼び出し 

緊急事態が発生したために帰宅後や休日中の社員を呼び戻したいときがあります。これは単なる残業命令ですので、就業規則に残業の規定があり、36協定の範囲内であれば有効です。当然ながら、働いた時間に見合う給与の支払いは必要です。

有給休暇中の社員の呼び出し 

このケースは帰宅後や普通の休日とは異なり、呼び出し命令はできません。本人に事態を説明し、本人が納得の上で出勤するのであればよいのですが、出勤しなかったからと言って懲戒処分をしたり、不利益な取り扱いをしたりすることはできません。もし短時間でも出勤したならば有給休暇を取得したことになりません。

茶髪、長髪、ひげの禁止 

就業規則で、茶髪、長髪やひげを禁止している会社があります。雇用契約は社員が仕事を行い、その対価として給与を支払うだけの契約ですから、社員とすれば職場だけでなく私生活にもかかわることを会社から干渉されたくないと思うでしょう。実際に仕事に影響があるのであれば、これを禁止する合理性があります。とはいえ、人の価値観は時代とともに変わります。
現在では接客業でも一概に茶髪等がNGと言い切れません。一律に業務命令で禁止するのではなく、個々のケースで判断し、業務指導の形でより良い方向に誘導することが得策でしょう。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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