制裁と損害賠償

制裁や損害賠償は公正さに欠ける場合に社員の不満を大きく高める要因になります。そのため、就業規則に制裁と損害賠償は分かりやすく納得できるように記載しておくことが求められます。

制裁と損害賠償を混同している人がいますが、全く違う概念です。制裁は、「社会的規範に背いた者に対して加えられる懲らしめや罰」です。一方、損害賠償は、「与えた損害を補い、損害がないのと同じ状態にすること」です。これでわかるように、損害賠償には懲らしめや罰の意味は全くありません。

労働基準法では、制裁に関して制限があります。制裁を減給で行うときには、一回当たりの減給額は平均賃金1日分の半額以内、1支払期間に複数回にわたって減給する事案があるときは、合計額がその期間の賃金の10分の1以内であることが決められています。たとえ、毎日規則を破ったために減給するとしても、2割も3割も減給することはできません。ただし、遅刻や欠勤で休んだ分を、その時間分だけ賃金をカットすることは制裁にはあたりません。当然ですが、結果として2割、3割減給することになっても違反ではありません。制裁の目的は、本人や同僚に対して再発を防止するためにのものです。懲らしめることが目的ではありません。

制裁に関して、就業規則には再発防止の目的を達成するために、その要件と制裁内容を明確に示しておくことを勧めます。

損害賠償額について、あらかじめ額を定めた契約を労働基準法は禁止しています。何事も事前に決めておく方が合理的であり、また公正のように思えますが、損害賠償に関してはそのように言えません。例えば、皿洗いの業務をしていて、食器を割ってしまったとしましょう。10,000円で購入した食器です。「食器を割ったときは、損害賠償として価格の25%を給与から天引きする。」として2500円を天引きする規定は一見合理的です。しかし、よくよく考えてみるとおかしいのです。割った原因が、本人の故意や重大過失のときも、本人の責任の少ない不可抗力のときも同じ2500円を支払うことに合理性があるとは思えません。割れた食器にしても、目に見えないひびが入っていたかもしれません。価格10,000円と言っても、今買ったら5,000円に値下げされているかもしれません。そのような訳で、損害が生じたときに、その損失を本人の責任と、会社のリスク負担責任を考慮して公正になるように決めるのが正当です。リスク負担責任とは、会社が事業をするうえで当然に負担しなければならない責任です。事業に食器を使用していれば、当然に食器は壊れることを前提にリスクを考えることが求められます。

法律論として、民法で損害賠償をすることは違法ではありません。それでも筆者は、社員に損害賠償を請求するのは故意や重大過失によって損害が生じたときに限定すべきと考えます。そうでなければ、社員は安心して仕事に集中することができません。不満だけが溜まります。その挙句、転職を考える人も出てくるでしょう。そんな状態で会社の事業が順調に進むことは考えられません。

損害賠償に関して、就業規則には「故意や重大な過失により会社に損害を与えたときは、会社は損害の範囲で賠償金を請求できる」旨の規定を記載しておくことを勧めます。

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