10月号 労働条件の不利益変更

事業がいつも順風満帆であればいいのですが、時には苦境に追い込まれることもあります。このときは経営者としてハムレット的な苦渋の選択を迫られることになります。整理解雇を「すべきか、すべきでないか。」と。今回は、もう一つの選択肢としての労働条件の不利益変更を考えてみます。

労働基準法の規制

給料日の朝になって、「売り上げが低迷しているので給料を全額は払えない。今日の給料を一律10%削減したので皆さん理解してほしい。」と言って一方的に給料をカットすることはできません。これは既に発生している労働債権を一方的に破棄する行為ですので労働基準法第24条「賃金の全額払いの原則」に違反します。社員が労働基準監督署に訴えれば、労働基準法違反として行政指導・罰則の対象になります。もっとも会社の苦境をよく理解している社員ばかりで、自由な意思で給料削減に理解を示してくれるときは、違法とはなりません。このときは労働債権の一部放棄がなされたことなります。

一方、将来に向けて周知後に行う給料カットは労働基準法の違法とはなりません。

労働契約法の制約

労働契約法は判例法理に基づいて作られた、新しい法律です。平成19年12月5日公布、翌年3月1日施行されました。この第8条に「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とあります。逆にいえば、合意がなければ、労働条件を変更することはできません。しかし、合意がなければどんなときにも労働条件を低下させることができないのでは、刻々と変わる経済情勢下では不合理なことが起きます。そこで法第9条では、就業規則の改正による労働条件の不利益変更を、原則的には「合意がなければ不可」としながらも、法10条で、「改正の必要性、その程度の合理性、改正に当たっての社員との話し合いの過程」等が適正であれは可能であるとしています。本来、就業規則は経営者が一方的に制定します。不利益変更のときは、無条件ではできないが、ルールを踏まえれば変更可能と法律も認めています。

痛みの分かち合い

法律的には、上のように不利益変更は可能です。しかし、これを実施するのは会社を立て直すための方策です。この変更によって社員のモチベーションが低下し、その結果として会社の業績低下となって跳ね返っては元も子もありません。

モチベーションを低下させない完璧な処方箋はありません。社長・経営者を含めた会社全体で痛みを分かち合うことが必要条件です。社員だけに痛みを強いて、経営者は今まで通りと思われるだけで、モチベーションは低下します。最低限、次のことを考慮しなければなりません。

  • 経営者報酬を引き下げ
  • 不要不急の出費抑制

不要不急の出費には、過剰な交際費や出張時のグリーン車、ファーストクラスの利用、緊急性・必要性希薄な設備投資、備品購入があります。これらに加えて、条件低下は一時的、暫定的で、状況の好転時には速やかに元に戻す約束が痛みを緩和します。「社員が路頭に迷うときは、私も路頭に迷う」(注)の姿勢が伝われば、社員は当然に協力するでしょう。

今回は、経営者として苦渋の決断となる労働条件の不利益変更について考えてみました。

注 ㈱樹研工業・松浦元雄社長の言葉 坂本光司著 『日本で一番大切にしたい会社 2』 あさ出版(2010年)

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