2009年9月発行 社会保険労務士丸山事務所 通信
今回は、就業規則にまつわる話題を提供します。
残業代が支払われていない?
今月(平成21年9月)17日に京都地方裁判所でのことです。元横綱若乃花こと花田勝氏の顔で有名なチャンコ料理の「Chanko Dining 若」に対して、「月給に割増賃金を含んでいるとは認められない」として、残業代約1,500万円と付加金約1,100万円の支払いを命じた判決がありました。同社は「支払った賃金は基本給と時間外の割増賃金を含んだものだった」と主張していたようですが、これが全く認められなかった訳です。
同社の主張が正しかったとしても、割増賃金を毎月の賃金に含めている証拠が就業規則なり給与規程なりのどこにも記載されていなかったのでしょう。もし、その記載があれば、判決はずいぶんと違ったものになっていたものと思われます。
蛇足ですが、付加金とは労働基準法第114条に規定されている労働者の請求に基づいて裁判所が命じるペナルティーです。
家族手当の支給要件は
次は就業規則に家族手当の支給要件を記載していた日産自動車の事例です。就業規則に支給要件を「実際に扶養している世帯主が支給対象」とあり、必ずしも住民票上の世帯主でなく一家の生計の中心的担い手等により具体的、個別的に決定するものとしていました。これに対して共稼ぎをしている女性社員から、「男性より女性の収入が低い現状から支給対象を一家の生計の中心的担い手とする規則は女性に対する差別的取り扱いである」との提訴がなされました。
東京地方裁判所は、家族手当は生活補助的性質が強く、実質的意味の世帯主に限るという会社の規則が「不合理なものでない」として訴えを退ける判決を下しています。しかしながら、家族手当の支給要件を明確にしないままに男性だけに支給していたならばどうだったでしょうか。男女差別であるとして全く逆の判決が下されたとしても不思議ではありません。
就業規則はWin-Winの関係を作るもの
就業規則の作成の動機は、①労働基準法で決められているため、②社員とのトラブル時に会社を有利にするリスク低減のため、③従業員の士気を高めるためと、色々あります。どれも一面では正しいといえます。しかし、意識するとしないに関わらず「会社の発展と社員の幸福のため」という、会社と社員とのWin-Winの関係を築くための就業規則を作成することが本来の最重要な目的でしょう。
就業規則の有無による裁判判決の事例を示し、就業規則の重要といわれるところのリスク低減の1側面を紹介しました。
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