2020年12月
残業時間減少や休業による減収が続き、貯蓄が底を突く社員が増えています。このため安易にお金を捻出できる給与ファクタリングを利用したトラブルが多くあります。今回は給与ファクタリングの仕組みおよび問題点について紹介します。
ファクタリングとは
ファクタリングは企業の資金調達方法の一つです。手形の現金化する方法に手形割引がありますが、ファクタリングは売掛金等の債権を業者に譲渡して現金化する方法です。売掛金を譲渡するファクタリングを買い取りファクタリングと言いますが、通常は本人、業者に売掛先を入れた3者間の契約になります。ところが売掛先にファクタリングの利用が知れると信用に傷が付くと考える会社は、2者間ファクタリングを利用します。売掛金を譲渡して現金を手にし、売掛金期日には売掛先から通常通り入金された全額をファクタリング業者に渡す仕組みです。
給与ファクタリングとは
給与ファクタリングは2者間ファクタリングを応用した仕組みです。給与前に給与債権を業者に売却し、その対価として現金を受け取ります。この際に業者は手数料を控除します。給料日に本人宛に給与は支払われますが、給与債権は既に業者のものですから全額を業者に渡します。業者が直接会社から給与を受け取ることは労働基準法第24条の賃金支払い5原則の直接払いに違反するために、このような仕組みにしています。
給与ファクタリングの問題点
業者は、給与ファクタリングは売買契約であり賃貸借契約ではないと主張しています。しかし、実態は給与債権を担保としての借金と同じです。
賃貸借契約では、業者は貸金業の許可を受ける必要があります。また、貸金業には利息制限法や出資法により上限金利の制限が掛かりますが、売買契約との主張のもとに年率換算が上限を超える手数料を取っている業者がいます。さらに、給料支給日に給与の全額を渡せないときに家族や勤務先に大声での威嚇やしつこい電話による悪質な取り立て、あるいは高額な遅延損害金を請求する事例が見られます。
給与ファクタリング業者は貸金業
2020年3月に金融庁は、給与ファクタリングは社員への金銭交付と社員からの資金回収がセットにされていることから、当該業者は貸金業と認定しました。従って、登録を受けていない業者は違法な「闇金融業者」になります。登録を受けていても手数料が年率換算して出資法制限の20%(10万円未満のとき。100万円未満では18%)を超えるときは違法です。
まとめ
給与ファクタリングは安易にお金を捻出できます。反面、危険が伴うことを社員に注意喚起する必要があります。その上で、強くお勧めする訳ではありませんが、給与の前借制度を整備することも一策です。ただし会社が社員に直接貸し付けすることは労働基準法の制約があって、実務上難しい面があります。会社の貸し付けに代わって外部の給与前借サービスを導入することで社員に便宜を提供することができます。
闇金融業者から高額の支払いを求められたり悪質な取り立てにあったりすることから事前に社員を守ることは社員を大事にすることであり、同時に優秀な社員を確保することに繋がります。