2020年6月
Q: 新型コロナウイルスの感染防止のための休業中に、正社員の一人がアルバイトをしていたことが発覚しました。正社員には休業中も通常と同額の賃金を支払っていました。問題ないのでしょうか。
A: 問題はあります。アルバイト代を償還させることもあり得ます。
問題は、この正社員は会社が感染防止のために休業しているのに関わらず感染リスクを犯してアルバイトに就いていることです。
民法536条2項には次のような規定があります。
「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」
本ケースに当てはめると次のような意味です。
「会社の責任で休業にしたとき、会社はその間の給料の支払いを拒むことはできない。このとき社員が休業中の時間を使ってアルバイト代を稼いだときは、それを会社に返さなければならない。」
休業期間中に社員が他の会社で働いて得た収入のことを中間収入と言います。中間収入を巡って償還請求の裁判例はいくつかあります。しかし、それらは不法解雇により無給となり、しかたなく他の職に就いたときの事例です。裁判で解雇が無効となり、解雇日から判決日までの間の給与を請求したときに、支払わなければならない給与から中間収入を幾らまで控除できるかとの争いです。判例によると中間収入全額の控除は認められず、少なくとも労働基準法の休業手当分すなわち平均賃金の60%までは社員に残さないとならないとされています。
相談のケースでは休業中には通常と同額の賃金を支払っていますので、上の裁判例とは事情が異なります。
あくまで私見ではありますが、①休業理由に会社の非がないこと、②休業目的に反してアルバイトをしていること、③休業中の賃金は全額支払っていることを考慮すると、アルバイト代全額の返還を請求することもおかしくありません。