2015年8月(第75号)
定額残業手当制度は直ちに違法とはなりませんが、運用の方法によってはトラブルになる例があります。今回は、定額残業手当のメリット、デメリットおよび裁判例を紹介します。
定額残業手当とは
固定残業手当とも言われます。毎月の給料に残業時間の長短に係らず定めた時間分の残業手当相当額を上乗せして支払う仕組みです。もし、定めた時間を超えて残業が行われたときは、当然に超えた時間分の残業手当を支払うことになります。
メリット
定額残業手当のメリットとして、①事務の簡素化、②生活の安定化が考えられます。
①事務の簡素化:実際の残業時間が定めた時間以内であれば、支払い総額が毎月同じとなり、給与の計算及び振込事務の簡素化が図れます。
②生活の安定化:残業時間が少ないときでも給与額が保障されるために、社員の生活の安定化が図れます。
デメリット
定額残業手当のデメリットとして、①事務の複雑化、②モチベーションの低下が考えられます。
①事務の複雑化:定めた時間を超えて残業があったときは、メリットであった事務の簡素化とは逆に事務が複雑化します。特に、定額残業手当が所定休日労働、法定休日労働分までもカバーしていると、事務はさら複雑化し、かつ矛盾も生じますが、本稿では詳細は省略します。
②モチベーションの低下:「今月は忙しかった、でも頑張った」、としても手にした給料がいつもと同じであったとなると、社員のモチベーションを下げることになりかねません。
労働基準法との関係
労働基準法では、一日8時間、週40時間を超えて労働させることを原則禁止しています。また、残業に関する協定、いわゆる36協定を締結するに際しては一般的な業種での月の残業時間は45時間を限度とする国の基準が存在します。定額残業手当を含んだ雇用契約と労働基準法の関係および国の定めた限度基準時間との関係があり、定額残業手当が無条件で認められるとは限りません。
裁判例
定額残業手当をめぐっては、裁判所が残業手当として認めなかった例が多々あります。
①残業手当額、残業時間の不明確な例:定額残業手当が単に基本給、役割給に含まれているとしていた例では、額および時間が明確でないとして、改めて残業手当の支払いを命じています。
②長時間の残業を前提とした例:基本給224,800円、職務手当154,400円で職務手当には残業手当95時間分であるとした例では、裁判所は45時間を超えた部分を固定残業手当として認めず、改めて残業手当を支払うよう命じています。
制度の改廃
定額残業手当制度は、業種、業態、その他によりメリット、デメリットが異なります。この制度が残業手当の未払いに繋がるようであれば直ちに廃止しなければなりません。また、社員のモチベーションを下げたり、長時間の残業を誘導したりするようであれば、改廃を含めて検討することをお勧めします。