10月号 員数主義

2023年10月(第173号)

今月の事務所通信は、題名を「員数主義」として勘定合わせとか形式主義と言われる員数主義をテーマしました。ビッグモーター事件の中で、納期に合わせるために依頼されていたコーティング作業を省略して納車したとの報道がありました。この件を調べる中で員数主義との言葉を知りました。さらに旧陸軍はそれがもとに崩壊の道を進んだとの記事にも出会いました。企業活動の足かせとなり得る員数主義ですので、今回紹介することにしました。

会社組織を蝕み、過去においては帝国陸軍を崩壊させたという員数主義。今回は員数主義の弊害について紹介します。

員数主義とは

員数とは、人や物の数の意味です。そして員数管理とは員数に過不足がないかを確認する作業を指します。員数管理は重要な管理作業ですが、員数主義とは数があっていれば質やその他はどうでも良いとするものです。極端な勘定合わせ主義、あるいは形式主義と言えます。

帝国陸軍の員数主義

フィルピンで敗戦を迎え、戦後に評論家として活躍した山本七平氏はその著書「下級将校の見た帝国陸軍」(文春文庫)の中で数々の員数主義を紹介しています。帝国陸軍では員数が違っていれば厳罰に処せられ、質はともかく数があっていればお咎めなしの制度がまかり通っていました。

ある日、著者は「ゲリラをせん滅すべし」との命令を受けました。砲を点検すると4門のうち3門は故障で、使えそうな1門に合うのはトーチカなどを破壊する砲弾だけで、人を殺傷する砲弾はありませんでした。しかし、この砲弾をゲリラのいそうなところに1時間にわたって打ち込み、その夜に「立派な」報告書を書き上げたと言います。

この様な員数主義、形式主義が上から下に至るまで横行していたために日本軍は崩壊したと著者は断言しています。

納期厳守

かのビッグモーターでは「納期厳守」は絶対でした。ところが営業担当者が忙しかったり、忘れたりして納車日までに作業者に指示書が届かないことがよくあった様です。その時はどうするか。作業をしないままで納車することになります。コーティングの依頼を受けていたのに車両を清掃するだけで納車したことがあると作業者が証言しています。顧客の利益を疎かにしても、納期は厳守する。納期を極端に重視した員数主義の表われです。

バイセル

日本を代表する総合電機会社であった東芝の凋落も員数主義によるものでした。サブプライムローン問題の影響で業績悪化が懸念されていた2008年にパソコン部門トップの下光秀二郎氏は営業利益の見込みが52億円にしかならないと社長の西田厚聰に報告しました。社長は「営業利益を最低でも30億円改善してほしい。」と、82億円の利益達成を要求しました。困った下田氏は、安く調達した部品を異様に高く設定して委託先メーカーに売却(セル)することで決算時の利益を水増しし、その後に買い戻す(バイ)手法を採りました。東芝はその後も同様のバイセルを続け、東日本大震災による福島第一原子力発電所事故と米原子力子会社ウエスチングハウスの巨額損失が手伝って悲劇の坂を転げ落ちることになります。

まとめ

中小の会社が員数主義を防止するためには、真っ先に社内外の風通しをよくして、その意見に耳を傾けることが挙げられます。 更に、①極端な賞罰制度は設けない、②特定の項目だけでの人事評価を行わない、が続きます。

極端な賞罰制度は、それに合わせた勘定合わせを生みます。特定な項目だけの評価制度も同様で、特定な項目だけをクリアするために他の項目を無視・軽視した行動を生み出します。いずれも員数主義を誘発する制度となり、避けなければなりません。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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