Q: 職員の一人が「今日で辞めます。明日から来ません」と言い残して帰りました。会社としては急に辞められるのは困りますが、嫌々働くのでは余計困りますので退職を認める方向です。その際に年次有給休暇の取り扱いはどうしたらよいのでしょうか。残日数分の手当を支払う必要はありますか。
A: 退職で年次有給休暇は消滅します。手当を支払う必要はありません。
年次有給休暇の目的は、社員が心身の疲労を回復したりゆとりある生活を保障したりして快適な勤労状態を保つためです。よって勤労義務がなくなる退職と共に年次有給休暇の取得権利も消滅します。年次有給休暇が残っていても、それに対して手当を支払う必要はありません。
今回は、職員がいきなり退職を申し出たケースですので、手当の支払いは不要ですが、次のようなケースもあります。
職員が前もって退職届の提出と同時に退職日までのかなりの日数の有給休暇取得申請を行った。会社としては、人手が不足するので有給休暇を使わないで欲しい。
このケースで、会社は有給休暇の取得申請を拒否することは当然にできません。更に事業の運営が妨げられるとしても時季変更権の行使も困難です。時季変更先を退職後にすることはできないからです。
会社ができるのは、出勤をお願いして、出勤により取得できなかった有給休暇日数分に対して金銭を支払う約束をすることです。これはお願いベースです。職員は拒否することができます。金銭額は有給休暇手当ではないので話し合いで決めることになります。どうしても出勤して欲しいときは、金額を高める必要があるかも知れません。
退職間際に有給休暇が40日間も残っているときは別の問題が発生します。
平成31年4月1日から会社に「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられたからです。この規定は会社の規模に関わらず年に10日以上の年次有給休暇を付与される社員に対しては本人の意思に関わらず付与日から1年間に5日以上の有給休暇を取得させる義務を会社が負うものです。有給休暇が40日間も残っていることは有給休暇を取得させていないとして労働基準法違反となります。
もっとも、この労働基準法違反と残日数分の手当の支払いとは全くの別問題です。
(2022年 4月回答)