8月号 一万時間の法則

2022年 8月(第169号)

人材育成は会社にとって最重要課題です。今回は訓練時間と成果に関する一万時間の法則をはじめとする経験則を紹介します。

一万時間の法則

英国のマルコム・グラッドウェル氏が著書『天才! 成功する人々の法則』(講談社、2009年)で紹介した説です。氏は心理学者アンダース・エリクソン教授(フロリダ州立大学)らが1993年に発表した調査を基にこの説に至りました。教授はバイオリンを専攻している学生の中で、①ソリストとして国際的に活躍する力がある学生と②普通の専攻学生の違いが、20歳になるまでに一万時間以上の練習時間を積み重ねていたか否かであることを見出しました。グラッドウェル氏は著書の中で「一万時間程度継続して一所懸命に取り組んだ人は、その分野のエクスパートになれる」という経験則を紹介しました。

これに対して、素質の問題や練習方法、時間数等で多くの反論がなされています。真偽はさて置き、誰でも時間は掛かっても一所懸命に練習さえすれば一流になれるとの説はうれしい話です。

成長曲線

訓練の累積時間と成果とは直線的な右肩上がりになるものではありません。多くの場合階段状になります。成長曲線の経験則では成長は、①準備期、②発展期、③高原期の3ステップで1ステージを構成しているとしています。①の準備期は比較的簡単なステップですが、成果と呼べる状態にはなりません。②の発展期は、成果を効率的に得やすい時期です。ところが③の高原期は伸びを実感できなくなり、自信を喪失したり、不安を抱えたりする時期です。ところが、これは次のステージへの準備期と重なり、この時期を乗り越えるとより大きな発展へ繋がります。そしてステージが上がるごとに成長するスピードはより速くなるとされています。

エクスペリエンス・カーブ

経験曲線とも呼ばれています。経営戦略手法プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで有名なボストン・コンサルティング・グループが理論化したものです。ある製品の累積生産量が2倍になるごとに、1個あたりのコストが10~30%ずつ下がるという経験則です。コストが下がる理由は明確ではありませんが、社員や会社の学習効果が要因の一つと言われています。人は同じ仕事をしていても繰り返すうちに動作が早くなることは経験上実感できます。会社も経験を積むことにより、同じ材料をより安いところから仕入れたり、効率の良い機械を導入したりすることがコストを下げる要因になります。

まとめ

入社の日からベテラン社員と同様に仕事ができることはありません。会社の環境や仕事の手順に慣れる時間が必要です。「一万時間の法則」は、適切な指導を行えば時間に長短はあるにしても誰でもベテランの域にまで成長させることができることを示唆しています。「成長曲線」では努力しているのに停滞している社員には信頼して待つこと、「エクスペリエンス・カーブ」では、勤務年数が長い社員は効率的な仕事が期待できることを示唆しています。

社員が成長して会社の主業務を担うまでには、適切な指導、信頼しての待ちに加えて長期間の勤務を担保する施策が求められます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。