営業譲渡と労働条件

Q: ある会社から営業権を買い取り、その会社で働いていた社員を簡単な面接後に全員を採用しました。社員から、「全員が移籍したので勤務期間は通算され、有給休暇は20日間あるはずだ」と主張されました。本当でしょうか。

A: 原則として勤務期間は通算しません。

M&Aにまつわる問題です。M&Aには様々な方式が存在します。合併、株式譲渡、事業譲渡、株式交換、株式移転等です。個々の方式の特徴、メリット、デメリット等についてはここでは言及しません。
会社間で具体的にどのような契約が交わされたかに関しては不明ですが、おそらく事業譲渡が行われたと推測します。事業譲渡とは、会社が事業の一部または全部を他の会社に譲渡する行為です。このとき、権利や義務が包括的に移転されるのではなく、個々の権利義務を両会社間で特定し、特定されたものだけが移籍されます。そのために、雇用契約も自動的に移転されるものでなく、社員1人ひとりの同意を取り付けることになります。御社が、社員1人ひとりと面談をして、結果的に全員を採用したとのことなので、事業譲渡が行われたと推測したものです。
となると、社員の権利、このケースでは有給休暇の付与日数に関係する継続年数が前の会社と通算されるか否かが問題になります。事業譲渡では、一度前の会社を退職し、新たに御社の条件に納得した方だけが入社したことになりますので、勤続年数はリセットされ、原則として通算されません。全員が移籍したとしても原則に変わりはありません。
これは、あくまでも法律上の解釈です。事業譲渡であっても移籍時に勤続年数を通算する約束があったならば、通算した年数で有給休暇を付与しなければなりません。「言った」、「言わない」の水掛け論や、「ウソをつかれた」、「騙された」と社員に思われては、M&Aの成功はおぼつかないものになります。ここは、両会社間の契約内容、前会社の社長と社員の協定や協議内容、社員との採用時の雇用条件、等々の内容を精査して、早い時期に社員が納得できるよう最大限の努力をすべきです。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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