なんらかの労働トラブルが原因で退職した元社員から、時間外手当を請求される会社があります。その根拠となる時間は本当に時間外手当の対象なのか。今回は、労働時間について整理してみます。
労働時間とは
労働基準法では、労働時間とは、「使用者または監督者の下で労働に服しなければならない時間」とされています。休憩時間や自由にできる時間は「労働時間」に当たりません。これは拘束時間内であっても、給料は支給しなくても違法になりません。ここで、よく問題になるのが、始業前、就業後の移動時間と、拘束時間内に発生する客待ち時間です。
移動時間とは
建設会社などでは、現場が遠方にあり、かつ交通の便がよくなかったりすると、一旦会社に集まった上で、会社の車に便乗して現場に向かい、就業後にも会社に戻ってから帰宅するケースがあります。工事現場が8時から始まるので、6時半には出社しなければならなかった。4時に仕事が終わって、会社に戻るのが5時半だったので、毎日の労働時間は休憩の1時間を除いた10時間だったと主張されることがあります。
多くの裁判所の判断はこの主張に否定的です。拘束されているとはいえ、移動中は寝てもよし、音楽を聴いてもよし、つまり「労働に服している」時間ではないとされています。ただし移動と同時に、原材料等を積み込んで運ぶときには、「労働時間」と判断されることがあります。
客待ち時間とは
小売店や美容室などではお客が来ないときは何もすることがありません。店内を歩いたり、椅子に腰掛けたりしています。一見、労働しているように見えませんが、客が来れば直ちに業務に取りかからなければなりません。このような時間を「手待ち時間」と呼び、「労働時間」とされています。この間の給料は発生します。
その他の労働時間
参加を義務付けられている始業前の清掃や朝礼、自由参加とは言いながらも査定の対象となる研修やボランティア活動は労働時間になります。昼休みに客からの電話応対を当番制等で義務付けられていれば、これも労働時間です。
反対に、出張先での月曜日早朝からの業務に合わせて日曜日の夕方に家を出たとしても、労働時間にはなりません。週末遅く業務が終わり、翌日に帰宅するときも同じです。このようなときには、労働基準法の労働時間ではありませんが、出張手当等でその労をねぎらう様にします。
手当の整備
元社員に過去の時間外手当を請求されるトラブルに合わないためにも、労働時間に当たる、当たらないことを確認しておくことが必要です。その上で、たとえ労働時間ではないとしても、社員を拘束している時間に対しては、例えば早期出勤手当や出張手当等を整備して補償を行うことが労使円満、円滑策として賢明でしょう。