3月号 採用内定の取り消し

2021年 3月(第142号)

採用を決めた者を事情により取り消さなければならないことがあります。今回は、採用内定の取り消しに関する諸問題を紹介します。

採用内定とは

採用内定とは会社が採用予定者に対して採用する意思を明らかにすることです。採用内定の法的解釈には諸説ありますが、「始期付解約権留保付労働契約」とする説が有力です。「始期付」とは、入社時期を明示していること、「解約権留保付」とは要件を満たせば会社は契約を解約(取り消し)することができることです。ただし採用内定も契約ですので会社が一方的に無条件に解約することができる訳ではありません。

卒業・資格取得

学生の新規採用では卒業を入社の条件にすることが多くあります。また、資格が必要な業務では資格の取得を条件にします。卒業や資格の取得が入社までにできないときに採用内定を取り消すことは比較的容易に認められています。

経歴詐称

無条件に取り消しできる訳ではありません。詐称がなければ採用していなかったぐらいの重大な詐称のときは認められています。

犯罪行為

犯罪行為で会社の信用に傷が付く場合には認められる可能性が高まります。ただし更生している犯罪歴を元に採用内定を取り消すことは特別の事情がない限り困難です。

結婚・妊娠

男女雇用均等法では結婚の予定や妊娠による差別を禁止しています。採用試験時に話しがなかったとしても結婚や妊娠を理由とする採用内定取り消しは認められません。

病気・怪我

採用内定決定後に掛った重篤な病気や怪我で就業ができなくなったときは、取り消しができることがあります。単に入社日に欠勤することになったぐらいでは取り消しできません。

経営悪化

経営環境の急激な悪化で社員を増やすことができない、あるいは減らさなければならない事態は起きえます。悪化が予測不能であれば取り消しは認められます。そうでないときは、会社としての責任が問われ損害賠償等の支払いが求められる恐れがあります。

まとめ

採用内定の取り消しは、取り消される人の一生を左右することもあり慎重にしなければなりません。とはいえ事情によっては苦渋の決断として取り消しをしなければならないときがあります。
採用内定取り消しのトラブル防止のためには適正な選考プロセスの構築と共に、内定通知書の整備が重要です。
内容通知書には採用内定を取り消す事由を可能な限り具体的かつ詳細に記載しておくことが有効です。ただし、結婚・妊娠を事由にするような法や公序良俗に反するもの、競馬・競輪等のギャンブル好きを事由とするような社会通念上相当でないものは有効とはなりえません。
採用内定取り消しは解雇とは違います。ただし取り消しには労働契約法第16条の解雇無効の規定が適用されるとの覚悟と慎重さが必要です。

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