9月号 求人詐欺

2020年 9月(第136号)

ブラック企業のレッテルを張られる原因の一つに求人詐欺があります。今回は求人詐欺の類型と行政の関与、裁判例を紹介します。

求人詐欺とは

求人時の雇用条件と実際の雇用条件が本人の知らないうちに変更になったり不本意ながら変更を強いられたりすることを求人詐欺と言います。次の4類型があり、例を示します。

① 給与:基本給40万円となっていたのに、45時間分の固定残業代が含まれていた。

② 勤務時間:残業がないとなっていたのに、長時間の残業、休日出勤があった。

③ 勤務内容:事務職の募集となっていたのに営業がメインの業務であった。

④ 勤務形態:正社員の募集とあったのに契約社員での採用であった。

採用時に本人の適性や能力により本人の納得の上で求人票の内容と異なる条件で採用することは求人詐欺には当たりません。

行政の関与

① ハローワーク:求人票の雇用条件と実際の雇用条件に差があるとの通報と受けると、調査の上で必要な修正指導を行います。

② 労働基準監督署:求人票は単なる「誘引」であるとの立場です。実際の雇用条件に反していない限り民事不介入として関与しません。

③ 労働局:社員が会社に対して異議を申し立て会社がそれに応じないときは労働トラブルが発生したと認識し、電話によるアドバイス(口頭助言)や話し合いの場を提供する「あっせん」を行い、早期の解決を目指します。

裁判例

原告は入社当時64歳の男性でハローワークの求人票を見て面接を受け採用されました。求人票には正社員、「定年制なし」と記載されていました。面接で求人票と異なる旨の話はなく、定年制に関しては未定であると説明されていました。勤務1ヶ月後に交付された雇用条件通知書には、「契約期間:期間の定めあり(1年間)」、「定年制:有(満65歳)」と記載されていました。

会社が契約期間満了時に雇止めとしたため、原告は雇止めを無効とする訴訟を起こしました。なお雇用条件通知書には「本通知書に記された労働条件について承諾します。」と印字がなされ、本人の署名・押印がなされていました。

裁判所は、①求人票記載の労働条件は、別段の合意をするなどの特段の事情のない限り雇用契約の内容となる、②労働条件通知書に原告が署名押印した行為は,就労1ヶ月後で自由な意思に基づいてされたものと認め認めることはできない、として雇止めを無効とし、その間の給与の支払いを命じました。(京都地裁:判決H29.3.30)

まとめ

求人票の記載内容と異なる条件で採用することはできますが、同一条件が原則です。どうしても変更しなければならないときは、遅くても入社の意思表示を受ける前に変更箇所と変更理由を書面で提示して本人の自由な意思に基づいた同意を取り付けておくことが大切です。

求人詐欺で入社したと後悔しながら働く社員を抱えることは、会社にとっても社員本人にとっても一つとして得なことはありません。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。