2024年12月(第187号)
今月の事務所通信は、「虚偽申告」と題して裁判所が会社の主張を認めた事例を中心に紹介しました。会社と社員とは単なる雇用契約関係だけでなく信頼関係で結ばれてこそ会社の発展につながるのですが、虚偽申告は信頼関係を破壊する行為です。紹介した通勤手当の不正取得で言えば、購入した定期券のコピーを提出させるような、虚偽申告が難しくなるようなチェックの仕組みが必要になります。
会社と社員とは信頼関係を基本に雇用契約をしますが、虚偽申告は信頼関係を破壊します。今回は裁判例を元に虚偽申告トラブルを紹介します。
経歴詐称
コンピューターソフトウェアの開発会社が、システムエンジニアの能力者を求人しました。これに応じてJAVA言語のプログラマ職歴や能力があると偽って申告し、契約社員として採用された者がいました。しかし、この社員の業務の進捗が不適当であり、質問内容も経験者とは思えない低レベルでした。会社は何度も進捗を確認し応援を入れる旨を伝えましたが、社員は経歴詐称の発覚を恐れて回避し続けました。
納期直前になってプログラムがほとんど完成していないことが明らかになりました。会社は就業規則の「重要な経歴を偽り採用された」の懲戒解雇事由に該当するとして、即時解雇をしました。
社員は、経歴に些細な誤りはあったものの解雇は無効と訴えましたが、裁判所は経歴詐称と認定し、懲戒解雇を有効と判断しました。(グラバス事件 東京地裁判決:H16.12.17)
架空出張旅費請求
機械器具及び部品の製造・販売の会社の社員が約1年9ヶ月にわたり111件の架空出張旅費請求を行い、285万余円を不正受給しました。
裁判所は、社員の行為を「重大な背信行為」と判断し、懲戒解雇処分を有効と認めました。更に社員に対し不当利得分の返還を認めました。(神戸地裁尼崎支部:H20.2.28)
通勤手当の不当取得
実際には品川に居住していながら、宇都宮に転居したとの虚偽の住民票を会社に提出し、約4年半の間に通勤手当231万余円を不当に取得した社員がいました。会社は、この者を懲戒解雇に処し同時に不正に取得した金額の返還を求めました。
裁判所は、この社員が1日の大半を無断で離席し連絡が取れない勤務状況であることと併せて、懲戒解雇を有効とし、不当取得した通勤手当の返還請求も認めました。(かどや製油事件 東京地裁:H11.11.30)
通勤手当の不当取得には、この他にも転居により通勤費が低額になったにも拘らず、高額のまま受け取っている事例や、申告経路よりも低額の経路で通勤し、差額を取得している例があります。
タイムレコーダーの不正打刻
パート社員の労働時間を管理する業務担当であった社員が、自らは故意にタイムレコーダーを打刻しないで、複数回にわたりタイムカードに後書きをして虚偽の退勤時刻を記載し、時間外割増賃金を騙取していました。会社は、この者を諭旨解雇に処しました。社員は、処分は無効として地位の確認と賃金支払いの仮処分を申し立てました。
裁判所は,本件懲戒処分は合理性を欠くものとは言えないとして申し立てを却下しました。(大阪地裁:H15.1.23)
まとめ
社員とは性善説に基づいての関係でなければ社内がギクシャクしてしまいますが、経歴詐称は別として虚偽申告がチェックできる仕組みが求められます。その上で就業規則の服務規定や懲戒規定の整備により、虚偽申告が自ずと抑制される職場環境を作りたいものです。