8月号 ビッグモーター

2023年 8月(第171号)

今月の事務所通信は、保険金水増し請求で連日マスコミを賑わせている株式会社ビッグモーターに関して労務管理上の問題点に焦点を当てました。6月2 6日に出された第三者機関の弁護士による調査報告書や、7月25日に開催された所長の記者会見からは労務管理だけをとっても問題点満載の会社であることが示されました。その中から一部ではありますが他山の石となり得る項目を取り上げてみました。

損害保険金水増し請求から端を発したビッグモーター事件。第三者機関による調査報告書と社長による記者会見から、同社の人事・労務上の問題点を探ります。

調査報告書と社長会見

自動車損害保険会社3社は不適切な保険金請求が行われている旨の情報提供を受けて、2022年6月に連名で実態確認をビッグモーターに要請しました。これに対しての回答には客観性•透明性が不十分で網羅性も欠けているとして、弁護士等の外部の調査委員会による調査を求め、翌年1月30日に特別調査委員会が設置されました。調査報告書は同委員会が6月20日までの調査結果を6月2 6日に発表したものです。

社長による記者会見はマスコミが同事件を連日取り上げる中の7月25日に開催されYoutubeで配信されました。

社長の責任

記者会見で保険金の不正請求に関して社長は、①自分は知らなかったこと、②板金塗装部門が単独で行った不正であること、③工場長の指示であり組織的な不正ではないことを強調することに始終しました。

更に故意に車を傷付けた行為を「信じられない」と怒りを滲ませ、刑事告訴までを言及する始末でした。そこには会社の責任者としての自覚が全く感じられず、まさに「泥棒が警官を演じる」を目の当たりにした思いでした。

懲戒人事

直近3年間で延べ37名の工場長が降格処分を受けています。社長は、降格は教育の一環で多数の復職人事も行っていると弁解しています。しかし、①弁明の機会が与えられていない、②理由が明確に伝えられていない、ことから教育ではなく経営者の言いなりになる社員の養成人事と見られても仕方ありません。

グループライン

調査報告書に「工場長のグループラインで、まともな職場ではおよそ使われない言葉で罵倒されることが日常的に行われていた。」と記述されています。記者会見で本件を問われた社長は、自分のラインには「そのような言葉はなかった」旨の回答をしています。

グループラインは業務連絡に便利で広く使用されています。グループラインは外部の目が届かない密室状態となるためにハラスメントの温床となり得ることが以前から指摘されています。

不合理な目標設定

売り上げは、客数×客単価です。会社が売り上げ目標を掲げることは普通です。また、例えばハンバーグを注文した客に「ポテトは如何ですか」と勧めることは定番の客単価増加方法です。しかしです。自動車修理の単価は、故障状態に応じて決まります。ましてや保険を用いた修理では客に選択の余地はありません。現場は当然に分かっていたはずです。それにも拘らず客単価の平均目標値を定め、その目標値達成を強く求めていたことは不合理で異常です。

問題は、現場の感覚とズレた不合理な目標設定が強行できた点です。懲戒人事と合わせて現場の反発を許さない企業体質が根底にあります。

まとめ

心理的安全性や社員満足の充実が叫ばれている時代です。同社は、このような世の中の潮流に真っ向から逆らった社風を作り上げて来たようです。一時的な成長はあっても、持続可能性の乏しい労務管理の典型と言えます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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