8月号 パート社員への降格処分

2014年8月(第63号)

期待して正社員で採用したものの欠勤、遅刻が改善されない、あるいは勤務態度が悪いために困った思いをした社長さんはゼロではないでしょう。今回は、このような正社員を懲戒処分としてパート社員に降格するときの問題点を整理してみます。

懲戒処分とは

懲戒処分とは、懲罰的な意味がある職務上の処分のことを言います。法律と同じで、罰を課すためには、どのようなことをしたときに、どのように罰せられるか、すなわち罰則規定をあらかじめ知らせておく必要があります。雇用条件通知書や雇用契約書に明示したり、就業規則に規定したりの方法が取られます。罰則を周知しないでの懲戒処分は、労働契約法第15条により無効となります。複雑な罰則は雇用条件通知書や雇用契約書には書き切れないので、就業規則に規定することが多く行われています。

懲戒処分と降格

就業規則の懲戒処分の部分を見ていますと、処分の種類に戒告、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇に交じって、降格や配置転換あるいは出向などが規定されていることがあります。著者は、降格や配置転換、出向を懲戒処分の中に入れることに賛成できません。
理由は3つあります。第1に労働基準法第91条の制裁規定の制限に抵触する恐れがあることです。降格や配置転換の結果として減給になり、この減給額が法に規定する制限額を超えると、労働基準法違反となります。第2に、労働契約法第8条との関係です。同条では一方的な不利益変更は無効になる旨が規定されています。第3に、降格や配置転換は、懲罰でなく人事政策の中で行うべきものであるとの思いがあるからです。

パート社員への降格処分

正社員をパート社員へ降格することは、通常の降格とは別の困難さがあります。通常の降格とは正規雇用や非正規雇用といった雇用形態はそのままに、役職を変更したり、給与等の等級を格下げたりすることです。一方、正社員からパート社員への変更は、雇用形態の変更になります。正社員という雇用契約を一度終了させ、改めてパートタイマーとして雇用契約を行うことになります。日本では、会社からの一方的な雇用契約の解除=解雇が厳しく制限されています。正社員からパート社員への変更を一方的に行うと、解雇問題に発展する恐れがあります。
問題なく変更を行うには、「強要でない自由意志に基づく同意」が非常に重要になってきます。パート社員への変更までの流れを遅刻・欠勤を例にして罰則規定があることを前提に具体的に示すと次のようになります。
①遅刻・欠勤に対して、始末書を提出させる。
②始末書が複数枚になれば、「減給」「出勤停止」を順に命じる。(処分内容を徐々に重くする)
③出勤停止処分後、改善されない場合は、解雇処分を行う。
④上記の解雇処分を行う時点で、情状酌量として、自己都合退職を促し、パート社員として再度雇用する。
重要なのは、適時・適切な指導を行った記録として、段階を経て形に残る処分をすることです。また、そういった指導・処分を行うのは、その過程で当人の勤務態度の改善を期待するためのものであることを本人に伝え、納得を図ります。さもないと、不当な処分・雇用形態の変更と主張される恐れが残ります。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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