年次有給休暇はよく知られた制度ですが、トラブルに発展するケースも少なくありません。相談事例を交えて年次有給休暇にまつわるトラブルを回避する方策を整理してみます。
繁忙期の年次有給休暇申請
季節によって業務の繁閑の差の大きい会社での話です。閑散期に年次有給休暇を取ってくれればよいものの、人によっては繁忙期を選んで申請してくるとしか思えない社員がいて困っていました。
このような会社には、計画的付与を勧めています。労使協定は必要ですが、年次有給休暇のうち5日を超える日数は、会社が休む日を決めることができます。閑散期を中心に与えれば、事業への影響を少なくすることができます。
集団での年次有給休暇の申請
若い社員が多い会社でのこと。韓流店でのパーティーでの勢いのまま韓国旅行へと盛り上がってしまい、翌朝に社員10名中8名が年次有給休暇を一斉に申請してきたと言います。社長もさすがに困って相談に及んだと言う訳です。
年次有給休暇は申請された日に与えるのが原則です。しかし、その日に取得されると事業の正常な運営ができなくなるときには、会社は例外的に取得日を変更させることができます。これを時季変更権といいます。8名も一緒に休まれると会社を臨時休業にしなくてはならないこと、そうするとお客さんに迷惑がかかることを、時季変更権を交えて説明し、2班に分けての韓国旅行とすることで一件落着としました。社長は協力への気遣いから、「美味いものでも食ってこい!」と餞別を渡して気持ち良く送り出したそうです。
引き継ぎをしないで退社
「自己都合退社のときは1ヶ月前までに退職願を提出すること」の規定が就業規則に記載されていました。ある中堅の社員がちょうど1ヶ月後を退職日に指定して退職願を提出しました。それと同時に、次の日から退職日までの全期間の年次有給休暇を請求しました。この事態に社長は、引き継ぎもできないと困りました。
この場合に年次有給休暇を拒否することは残念ながら出来ません。会社には時季変更権がありますが、退職日が迫っているときは使えません。
では、業務の引き継ぎはどうするのか。この対処法は、就業規則に、「社員は、退職日までに必ず業務の引き継ぎを完了し、会社の承認を受けなければなりません。」旨の規定を入れておくことです。実際に引き継ぎが行われなかったときは、就業規則違反として退職金の減額、あるいは損害賠償金の請求ができるでしょう。
最善の方策は
上の方策は、実は対処療法に過ぎません。風邪の対策でいえば、うがいの励行や風邪薬の服用ぐらいに当たるでしょう。根本的な予防は体調を整えて、免疫力を高めることにあります。
会社でいえば、コミュニケーションを図り、社長と社員の価値観を一致させる、これが最善の方策となります。とはいえ、一朝一夕にはできません。経営者としての究極の課題となるでしょう。