「会社が潰れる」と縁起でもない表題を付けました。しかし、労働災害の損害賠償の支払い命令を受ける事態となったら、会社は大打撃を免れません。今回は、損害賠償の支払い命令に関する判例を2例と対処法を紹介します。
損害賠償とは
社員が、労働災害によって治療が必要となり、そのため就業が出来ない状態になると、会社は、その治療費、休業中の賃金の補償を労働基準法により課せられます。この補償は、最初の3日間を除いて、労働災害保険から支給されますので、実質的には3日間の休業補償の負担だけで労働基準法に基づく補償は終了します。ところが、労働災害保険の補償は、治療費や休業による賃金の喪失分の一部を補償するだけです。怪我や病気による痛みや苦しみ、恐怖や不安による心の痛み等は全く補償しません。労働災害保険で補償されない残りの損失や、精神的、肉体的苦痛を慰謝料の形で請求される事件が、多く起きています。これらは労働災害保険ではカバーされません。支払うためには、会社がお金を用意しなければなりません。
アスベストによる中皮腫に4600万円
船舶の修繕作業に従事していた下請け社員が中皮腫により死亡したのは船舶の建造・修繕会社の責任であるとの遺族の訴えに、裁判所は親会社に4600万円余の支払いを命じました。主要な争点は、中皮腫発生の予見性の可否でした。会社は、市場に流通していた断熱材の危険性を認識することは不可能であった、と主張しました。しかし、裁判所は1906年頃の英国における危険性の報告をはじめ、国内での報告を踏まえて、予測可能であったと判断し、適切な対策を取らなかった会社に安全配慮義務違反があったとしたものです。
この裁判の教訓は、法律で禁止されない時期において市場に流通していたものであっても、その取り扱いには万全の安全配慮が求められると認定されたことです。
長時間労働による過労死に1億5720万円
大卒として入社4ヶ月後に過労死した居酒屋店員の遺族が、長時間労働を常態化させていた会社と、4人の役員を訴えた事件です。裁判所は、会社と役員陣それぞれに7860万円余、総額1億5720万円余の支払い命令を出しました。決め手は、労働災害認定基準を上回る長時間労働を強いていたこと。長時間労働が過労死を招いたもので、会社と役員には安全配慮義務違反、善管注意義務違反とされました。
会社を潰さないために
上記2例の損害賠償金額は、4600万円、1億5720と多額です。この様な命令を受ければ潰れる会社が少なくないでしょう。この事態を防ぐための最低限の方策を示します。
- 危険個所をさがす:事業活動を精査し、死亡や重篤な後遺症に繋がるものをさがします。その上で危険の回避努力をする。
- 法令違反をなくす:基本的な危険防止策が取られていない、必要な届け出がされていない、有資格者を配置していない等の言い逃れできない法令違反は致命傷となる。
- 労災総合保険の検討:万が一事故があったときのために、労働災害保険の上乗せ補償の民間保険に加入する。