5月号 使用者責任

2018年 5月号(第108号)

忘年会の2次会中の従業員同士のトラブルで会社の責任が認められた事件がありました。今回は、この事件を含めて使用者責任についてまとめて見てみました。

使用者責任とは

民法第715条に「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」との規定があります。いわゆる使用者責任を定めた規定です。これによると、社員が第三者に損害を与えた場合には、会社がその損害を賠償する義務があるとされています。続いて、「ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」との免責規定がただし書きされていますが、残念ながら免責される例は殆どないようです。

忘年会2次会での暴行事件

居酒屋の正社員Aは、店長から忘年会への参加を促されました。Aは、当日は休みでしたが他の従業員が全員参加することから参加を承諾しました。当日午前2時過ぎから始まったカラオケ店での2次会でAは同僚と口論の末に殴る蹴るの暴行を受けて、肋骨を折るけがを負いました。Aは、加害者の同僚と会社に対して約177万円の損害賠償を東京地方裁判所に訴えました。
会社は、2次会で発生した暴行は業務外のため使用者責任はないと反論しました。裁判所は、参加を店長から促されたこと、2次会は帰宅できない時間に開催され、参加せざるを得ない状況から「仕事の一環だった」と判断し、使用者責任を認めました。(出展:企業法務ナビ2018/04/25)

厳しい指導による自殺

計理事務を担当していた正社員Bは、指導を行うべき立場にあった先輩Cから長期間にわたり、いじめ・パワーハラスメントを繰り返し行われた結果、うつ状態に陥り自殺するに至った。Aの遺族はこのように主張して、加害者の先輩Cと会社に対して損害賠償金を求めた。
先輩Cと会社は、Bが単純なミスを繰り返していたために行った指導であり、厳しい口調を伴うものではあっても,Aの人格非難を伴うような言動はなく、職場の先輩としての正当な指導の範囲内で、いじめ・パワーハラスメントと評価されるようなものではないと主張しました。
裁判所は、当該ミスはB自身の注意不足のみならず、先輩Cが感情的にAに対する叱責を繰り返したことによりAの心理的負荷が蓄積されたことも相当程度影響しているものとみるのが相当であると判じた。その上で、先輩Cの指導は社会通念上許容される範囲を超え、Bに精神的苦痛を与えるものであり不法行為に該当するとして、先輩Cと会社に合計6,400万円余の損害賠償の支払いを命じました。(名古屋地方裁判所H29/1/27)

まとめ

民法第715条の使用者責任は非常に広く会社の責任を求めています。とは言え、会社として社員全員の言動を常時監視することはできません。会社としてすべきことは、使用者責任をリスクとして把握すること、および社員に対してコンプライアンスの遵守が重要であることを繰り返し周知徹底することです。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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