2025年 1月(第188号)
今月の事務所通信は、「消滅時効」と題して普段はあまり気にすることの少ない時効を取り上げました。労働基準法の時効期間が2020年4月から変更になっていますが、その期間は激変緩和措置としての「当分の間」とされています。今年4月には、施行後5年間を経過するので見直しされてもおかしくない時期に差し掛かっています。実際に見直しが行われたときは、改めてお知らせします。
民法改正により消滅時効期間が変更され、それを受けて労働基準法の時効期間も変更になりましたが、「当分の間」は激変緩和措置が取られています。今回は、現行の消滅時効を紹介します。
改正民法による消滅時効の原則
民法改正後、債権の消滅時効期間は2つの基準を原則に統一されることになりました。
- 主観的起算点: 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
- 客観的起算点: 権利を行使することができる時から10年間
これらのいずれか早い方が経過した時点で、債権は時効によって消滅することになります。
改正労働基準法による消滅時効の原則
これを受けて、労働基準法の賃金その他の時効期間が次の様に改められました。
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賃金請求権の消滅時効期間
本来の改正: 2年から5年に延長
激変緩和措置: 当分の間は3年 - 記録の保存期間
本来の改正: 5年に延長
激変緩和措置: 当分の間は3年 - 付加金の請求可能期間
本来の改正: 2年から5年に延長
激変緩和措置: 当分の間は3年
激変緩和措置は「当分の間」とされており、将来的には本来の改正内容である5年への移行が予定されます。具体的な移行時期は示されていませんが、「改正法の施行5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じる」となっています。施行5年経過が今年4月に当たるので近いうちに何らかの動きが出てくることが予想されます。事実、日本弁護士連合会は昨年5月に厚生労働大臣宛てに意見書を提出し、激変緩和措置の速やかな撤廃を求めています。
その他の消滅時効
労働基準法以外の消滅時効は民法改正後も従来と変わりありません。
- 健康保険給付:消滅時効期間は2年です。これらの給付には、傷病手当金、療養費、高額療養費、出産手当金。出産育児一時金および埋葬料があります。
- 雇用保険給付:消滅時効期間は2年です。これらの給付には、就業手当、再就職手当、就職促進定着手当、常用就職支度手当および受給資格者の死亡時の未支給等失業等給付があります。
- 労災保険給付:消滅時効期間は2年と5年があります。2年の給付には、療養(補償)給付、休業(補償)給付、葬祭料(葬祭給付)、介護(補償)給付があります。5年の給付には障害(補償)給付、障害(補償)給付があります。
消滅時効期間を経過すると請求権が消滅するので早めに請求することが重要です。
まとめ
労働基準法に関わる賃金や付加金の消滅時効期間が5年になっても、普通に給与を支払っている大多数の会社には何らの影響もありません。ただし、記録の保存期間の延長には保存場所や保存方法を含めて検討が必要になる会社もでてきます。他の消滅時効期間は変更の動きがありませんが、社員が適正に給付を受け取れるよう会社としての支援体制の構築が求められます。