2017年6月(第97号)
業務上災害、すなわち労働災害が発生すると会社は社員に対する補償をはじめとする種々の責任を課せられることになります。今回は、業務上災害についてまとめてみます。
業務上災害とは
労働基準法の第8章の「災害補償」に業務上災害が生じたときの会社の責任が規定されています。会社の責任としては、①治療費の全額を補償する療養補償、②就労できない日の給与を補償する休業補償、③後遺症に対する障害補償、④死亡したときの遺族に対する遺族補償等を規定しています。同法には、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合に」会社に責任が生じるとありますが、具体的な要件は記載されていません。どの災害が業務上災害となるかに関しては、労働者災害補償保険法(労災法)に認定基準が定められています。実務的には、労働基準監督署長がこの基準に沿って認定すると業務上災害となり、会社に種々の責任が課せられます。
労災法による業務上災害とは、「業務と傷病等の間に相当因果関係が存する場合」が当てはまるとされています。これを「業務起因性」といいます。この「業務起因性」が認められるためには、その前提要件として、労働者が労働契約に基づいて会社の支配下にある状態であることが必要となります。この状態を「業務遂行性」といいます。業務上災害とは、「業務遂行性」があり、その上で「業務起因性」があるときになります。
業務上災害に対する会社の責任
会社の責任は、労働基準法に規定されている災害補償だけではありません。①刑事責任、②行政責任、③民事責任、そして④社会的責任が課せられます。
刑事責任とは、例えば労働基準法に違反となる長時間労働や労働安全衛生法に違反となる設備の不良が原因で怪我や病気が発生すると、有罪判決を受けることがあります。行政責任とは、許認可に係わることで違反があると、営業停止や許可取り消し処分があります。民事責任とは、本来会社には社員が安全に勤務ができるようにする安全配慮義務が課せられているとの前提のもと、それに反することに対して損害賠償を請求されることです。社会的責任とは、業務上災害がもとで、取引先や消費者に愛想を尽くされ、業務量や売上額の減少等が生じることです。
労働基準法の「災害補償」に掛かる費用の一部は労災保険から支払われますが、他の責任は会社が自ら全額を負担しなければなりません。
まとめ
業務上の怪我や病気を完全にゼロにすることはできません。災害が起きたときに重要なのは、法令やガイドラインに反する行為をしていないことです。時間外労働は36協定の範囲内に収めること、機器の点検・保守は労働安全衛生法に基づいて確実に行うこと、トラック運転手には連続4時間を超える運転はさせないこと等々のコンプライアンスの順守が規模の大小にかかわらず全ての会社に求められます。コンプライアンスに反する行為は、結局は高く付くことを常々肝に銘じることが必要でしょう。