社員が不祥事を働いたとき、あるいは重大な失敗をしたときに、減給をすることがあります。ただし減給の仕方により、労働基準監督署の指導を受けることがあります。今回は、減給と労働基準監督署との関わりを整理してみます。
労働基準監督署とは
労働基準監督署は主として労働基準法をつかさどる役所です。法違反を行う会社があれば、これを指導し、悪質な違反となれば検察庁に書類送検します。労働基準監督署は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行うことができるとされています。労働基準法以外にも、労働安全衛生法、最低賃金法、家内労働法、労働災害保険法等の10程度の労働法令に関与しています。
労働法令と言っても、解雇や雇い止め、労働条件の変更のルールを定めた労働契約法や、性差による差別を禁じている男女雇用機会均等法に関する事案には直接関与できません。解雇で言えば、30日前に解雇の予告をする、解雇予告手当を支払うとの解雇の手続きを適正に行っていれば、例え理不尽な理由で解雇したとしても、労働基準監督署は関与しません。いわゆる民事不介入です。
減給の仕方
減給と言っても、状況により色々な仕方があります。遅刻1つを取って見ても、①働かなかった時間分をカットする、②ペナルティとして1時間分の給与をカットする、③その月の精皆勤手当をカットする、④懲戒降級して基本給を下げる、⑤ボーナス査定での評価を下げる、ざっと見てもこんな仕方があります。運送会社で交通事故を起こした運転手に、⑥安全運転奨励手当を3ヶ月から12ヶ月間停止する、⑦就業規則に規定してある「損害額の20%を損害賠償代として支払う」に応じて、月3万円を10ヶ月間にわたって控除すると言った例もあります。
労働基準法違反の減給
労働基準法で減給に関わる規定には、第16条の損害賠償予定に禁止、第24条の賃金支払い5原則の中の全額払いの原則、第91条の制裁規定の制限があります。上の減給例でも、労働基準法の規定に抵触しているものがあります。
①ノーワークノーペイの原則により問題ありません。②懲戒規定に基づくものであれば原則問題ありません。③精皆勤手当の不支払い要件に該当すれば問題ありません。④法第91条に抵触する危険があります。当事務所では就業規則に懲戒降格の規定をいれることをお勧めしていません。⑤ボーナスの評価項目に勤怠実績を入れることは問題ありません。⑥は④と同様に危険です。⑦第24条、第19条に違反となる可能性があります。
④、⑥や⑦により減給された社員が労働基準監督署に訴えると、労働基準監督署は事実確認を行い、労働基準法違反が確認できると行政指導として是正勧告を行うことになります。
労働基準法以外の問題点
労働基準法に違反でなくても減給をするためには、その根拠を明確にしておくことが大切です。就業規則に減給の規定を詳細を記載しておくことが無用なトラブルを防ぐことになります。これがないと、労働契約法の懲戒処分に対する権利濫用や労働条件の不利益変更等で争われたときに、会社が不利な立場に置かれます。労働トラブルでは予防が最大の防御策といえます。