2月号 退職に伴うトラブル

2018年 2月号(第105号)

退職時は会社に対するロイヤルティーが最も低下し、円満退社でないときは大きなトラブルに発展するケースも少なくありません。今回は、退職時のトラブルに関して判例を基に見てみます。

合意退職を解雇事由としたケース

タクシーのドライバーとして勤務するAは人身事故を起こし、同じ月に車両の一部を傷つける物損事故を起こした。同じ月に2度の事故は都合が悪いと考え、持っていたタッチペンで傷を隠し、報告をしないで帰宅した。同僚がこの傷を発見し、会社に報告したために事故が発覚した。Aは報告しなかったことを詫び、始末書と進退伺を提出した。会社は進退伺を退職の意思表示と理解し、Aを自主退職扱いとした。Aは自主退職では雇用保険に支給制限が掛かるので、解雇にしてくれるよう頼んだ。会社はこれを了承し、離職票に解雇と記載した。後日、Aは解雇権の濫用であると裁判所に訴えた。
裁判所は、Aによる離職票記載依頼の件を認めず、①進退伺は退職の意思表示でない、②退職届が提出されていない、③Aに懲戒処分歴がない、④就業規則に規定された事故調査委員会を開催していない、⑤隠ぺい工作は悪質だが、それを以ても解雇処分とすることは解雇権の濫用であるとして、解雇日からAが再就職した日までの賃金の支払いを命じた。(H26/11/12東京地裁)

退職勧奨により合意退職したケース

携帯電話の屋外鉄塔工事に従事していたBは、初歩的なミスを繰り返していた。社長は、このままでは元請けから指名停止となり倒産になりかねないと危機感を抱き、一刻も早くBを退職させようと退職届の提出を促した。Bはその場で退職届を作成し、社長に渡した。その後、Bは外部の組合に相談して退職届の撤回を求めた。会社がこれを認めなかったので、Bは逸失利益と慰謝料を求めて裁判所に訴えた。
裁判所は、社長の行った退職勧奨を懲戒処分としての諭旨解雇と認定した。Bの行動には諭旨解雇処分を行うに足りる合理的な理由があったとしながらも、懲戒処分を行う際には,懲戒処分であることを明示した上で,その根拠規定と処分事由を告知することが必要で、かつ解雇予告もしくは解雇予告手当の支払いが必要であると断じた。この手続きが取られていないために不法行為が成立するとして、解雇予告手当と慰謝料の支払いを命じた。(H21/4/23仙台地裁)

まとめ

円満退職でない限り、退職時には社員と会社の利害は対立することが多いので、会社には法令や就業規則に則した慎重な言動が求められます。Aのケースでは、会社は、①退職届を求めていないこと、②Aの依頼を受けて解雇と記載した離職票を発行していることと、少なくても2点のミスを犯しています。Bのケースは、トラブルを完全に防ぐのが困難な事案です。会社は退職勧奨として退職届の提出を促しただけですが、裁判所は解雇と認定しました。退職届が有効とされるには退職の同意が自由意思であることが客観的に示されることなので、本件ではその場での受理を控えて、日を改める等の配慮が必要だったと言えます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。