2016年9月(第88号)
定年後再雇用した嘱託社員の賃金が正社員と比べて不合理に差があるとした判決がありました。一地方裁判所の判決とは言え、同一労働・同一賃金に踏み込んだ判決として注目されています。
今回は、同一労働・同一賃金について整理してみます。
同一労働・同一賃金に関する法律
平成27年9月に「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」通称同一労働・同一賃金推進法が成立・施行されました。この法律は基本法の位置付けで、会社を直接に規制する法律ではありません。今後、同一労働・同一賃金に関する法令を整備する根拠となる法律です。
現在、同一労働・同一賃金を直接規定する法律はありませんが、この理念を内包する法律は既にいつか整備されています。①労働基準法第4条の「女性の賃金差別的の禁止」、②パートタイム労働法第8条、第9条の「待遇の原則および差別的取り扱いの禁止」、③労働契約法第20条の「不合理な労働条件の禁止」がそうです。上の判決は、長澤運輸事件と言われ、労働契約法第20条に違反すると判断されたものです。
長澤運輸事件とは
運送会社に勤めるドライバー3名が、定年後1年契約の嘱託社員として再雇用された。彼らが、同じ業務でありながら正社員であったときよりも21%も給与が減少したことを法違反として訴えたものです。裁判所は、正社員との間に職務内容その他に全く違いがないにも関わらず、給与を減少させることを正当とする特段の事情が認められないために不合理であるとして、これを違反と判断したものです。直接的に同一労働・同一賃金を認めた判決ではありませんが、結果的にこの理念を判例したことにより、大きな波紋を投げかけました。この判決には経営側や法律関係者から多くの批判がありますが、ここでは敢えて触れません。
同一労働・同一賃金は現実的か
欧米においては同一労働・同一賃金が常識とされ、給与体系もそのようになっていると聞きます。職務内容は職務記述書に詳細に記述され、社員は記載された業務をこなせば良いことになります。
日本においては、職務記述書がなかったり、あったとしても大雑把な内容しか記載されてなかったりします。善悪は別として、業務の都合に合わせて臨機応変に仕事をすることが日本では求められます。つまり、一人ひとりの職務内容が明確になっていないので、同一労働か否かが判断できません。現段階で同一労働・同一賃金は現実的でないでしょう。
その一方で上述の同一労働・同一賃金推進法が成立・施行されていますし、政府は一億総活躍国民会議で同一労働・同一賃金の議論を開始しています。正社員と同じ業務に就いている非正規社員からすれば同一労働なのに同一賃金ではないとの不満が爆発する環境は揃っています。
同一労働・同一賃金は現実的でないとしても、会社として非正規社員の不満をそのままにしておくことは得策でありません。①会社業績への貢献、②業務の困難さ、③責任の軽重、④必要能力の有無、⑤将来への期待度、⑥生活の安定保障等の項目を項目毎に評価し、その結果を踏まえた給与であることを、丁寧に説明する努力が必要なことを長澤運輸事件は示唆しています。