パワーハラスメント防止の法制化

平成31年 2月(第117号)

厚生労働省は労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)の分科会に、会社に対して法律でパワーハラスメント(以下、パワハラとする)の防止措置を講じることを義務付ける方針を提示しました。今回は、パワハラの問題点、法制化の要点等を整理してみます。

パワハラとは 

厚生労働省は、パワハラとは、①優越的な関係のもとに、②業務上の必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、③社員に身体的・精神的な苦痛を与えることの3条件を満たした言動としています。①の優越的な関係とは、単に上司や役員等の上位者であることに限られず、周囲への影響力や体力に勝る等の者も含まれます。世に言うお局さんが身体的・精神的な苦痛を与えたときは、たとえ役職が低くてもパワハラに該当します。

法制化の背景 

都道府県労働局が受けている相談で、パワハラが上位を占めるようになってから既にかなりの日が経ちます。埼玉労働局内に限ると、労働紛争の相談の内、平成25年度以降は常に「いじめ・嫌がらせ」がトップを占め、相談件数のほぼ4分の1の24.0%となっています。
パワハラを受けたことにより精神に異常を発症したり、自殺に追い込まれたりした例が新聞・テレビで報じられています。広告会社の電通での新入女子社員の自殺事件は、常軌を逸する違法な長時間労働が原因の一つであることは否めませんが、パワハラが加わらなければ尊い命が失われることはなかったと思われます。
パワハラは、個人の尊厳を傷付けることに留まらず、社会的にも多くの損失を生んでいることが法制化の動きに繋がりました。

法の骨格 

法制化に当たって、パワハラを許した会社に労働基準法の様な刑事罰による制裁を科すことや、被害者による行為者等に対する損害賠償請求の根拠を設けることについては否定的です。現状においても悪質な行為は既存の刑法違反に該当し、不法行為に対しては損害賠償請求の対象となりえます。これらを改めて法令に盛り込もうとすると、民法等の他の法令との関係の整理や違法となる行為要件の厳密な明確化等、ハードルの高い課題があります。そのため、今回の法制化では罰則付きの法律にはしないようです。
法令は、男女雇用均等法のセクシュアルハラスメント防止と同じ様に、会社に対してパワハラ防止を確実に予防し、解決に向けた雇用管理上の措置を義務付ける方向です。その際、職場における適切な業務指導とパワハラとを区分し易くするために「パワハラの典型的な類型、該当する例や該当しない例」、会社が講ずべき具体的な措置の内容を明確に示すことにしています。

まとめ 

パワハラ防止法令の有無に関わらず、会社からパワハラを根絶することは社長に求められた重大な課題です。社長が「我が社では絶対にパワハラは起こさせない、パワハラ被害者は一人たりとも出さない」との決意をすることが出発点です。
具体的な措置としては、①パワハラ行為が確認されたときに厳正に対処する旨の方針やその内容の就業規則への記載、②就業規則の全社員に対する周知、③パワハラ被害者やその周辺者からの相談に適切に応じるための体制の整備、④パワハラ発生の温床となる組織の在り方や、評価制度等の見直しが求められます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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