降格させる場面は色々あろうかと思いますが、次の3場面に集約できるでしょう。
- 失敗の責任を問う形での降格 (懲戒降格)
- 能力に欠けるための降格 (不適任降格)
- 組織の変革に伴う降格 (リストラ降格)
ここでは、部長に抜擢したものの期待した成果、能力を発揮しないときの処遇としての降格、不適任降格を考えてみます。
そもそも人事権には会社の裁量が広く認められていますから、昇格させるのも降格させるのも会社の裁量の範囲とするのが原則です。しかしながら役職と給与とは密接に関係していて、降格されると給与が減少します。給与は当然に生活の糧ですので、影響のあまりに大きい降格に関しては制限があったとしても不自然ではありません。
表題の、部長を平社員に降格できるか?筆者は原則として否定的です。平社員から、いきなり部長に抜擢されるような会社であれば話は違います。あるいは、怪我や病気のために部長としての職務はおろか主任・係長の職務も全うできない状態であるときも例外として降格できるでしょう。問題は部長に抜擢したものの期待した成果、能力を発揮しないときです。通常の会社では平社員から主任、係長、課長の長い道のりを経て部長に昇格することが普通です。そして、その各々の職位で評価を受けた後に上の職位に昇格されます。ですから部長職への適性がなかったとしても課長職は既に合格しているのです。にもかかわらず課長職、主任・係長にも当たらないとの判断をするには、この判断の理由が問われるところです。これに応えられないと民事で争った場合に人事権の乱用として無効判決になる可能性が高まります。
人事権は会社の裁量が広く認められていますから、改めて就業規則に「降格もありうる」ことを明記しなくとも降格人事は行えます。しかし、就業規則は会社の掟です。降格人事の事由を記載しておくことは、昇降格人事の透明性、公平性につながり、人事制度の面から望ましいものと言えます。