4月号 解雇の企業リスク

日本相撲協会は八百長に関与したとして蒼国来と星風の2力士を解雇しました。これに対して、2人は、不当な解雇として裁判所に訴えを起こしました。代理人にテレビで馴染みのある北村晴男弁護士がなったこともあり話題性のある裁判になりそうです。現段階で裁判の行方を予想することはできませんが、今回は解雇を巡る問題点を整理してみることにします。

解雇とは

自己都合退職が社員からの一方的な雇用契約の解約であるに対して、解雇は会社からの一方的な雇用契約の解約です。本来は契約自由の原則の下に、どのような契約の締結も解約も自由のはずですが、労働法により解雇には制限が設けられています。そのため、解雇をすることは会社にとって、労働法のリスクを伴うことになります。

労働基準法による解雇制限

労働基準法で解雇が制限されるのは、業務上の怪我等の療養中、産前産後休業中およびそれらの後30日間を解雇禁止期間として制限していることと、解雇の手続きとして30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いを会社に課しているだけです。労働基準法で不当な解雇とか解雇権の濫用とかを問われることはありません。その意味で、労働基準法は原則的に解雇自由の法律と言えます。労働基準法の施行をつかさどっている労働基準監督署から解雇理由の正当性の有無を以って行政指導を受けることは決してありえない訳です。

労働契約法による解雇制限

労働契約法は平成19年12月5日に公布され、平成20年3月1日から施行された比較的新しい法律です。労働契約の基本理念や、共通する原則およびそれまでの労働裁判において確立した判例等をもとに会社と社員との契約のルールを体系的にまとめたものです。解雇に関しては、労働契約法第16条「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と今までの判例で確立した法理を条文化しています。「客観的に合理的な理由」とは、就業規則等に解雇の事由が明記されていること、かつその事由に該当する事実があることです。八百長事件でいえば、①八百長をしたら「解雇する」との規定があり、かつ②八百長をした事実があることです。さらに、「社会通念上相当である」とは、③解雇することが一般社会から見て厳しすぎないことを意味しています。①規定があり、②事実があり、かつ③厳し過ぎない、この3要件の1つでも欠けていれば、解雇は無効となってしまいます。これが労働契約法に盛り込まれている解雇制限です。

解雇は何時でもリスキー

社員を解雇することは、裁判所に訴えられるリスクを覚悟しなければなりません。裁判となれば、出廷やその準備のための時間的負担、弁護士への経済的負担が発生します。裁判の結果を予想することは困難としても、3要件を満たしていなければ、解雇無効の判決が出てもおかしくありません。そして解雇が無効となれば、解雇日から職場復帰日までの給料を支払うはめになります。これは、中小規模の会社のとって大変な負担になるでしょう。

解雇は極力回避すること、どうしても解雇が必要ならば事前に就業規則を整備し、客観的に合理的な理由を明確に示せることが絶対的に必要です。

今回は力士の解雇事件をきっかけに、解雇にまつわる問題点を整理してみました。

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