7月号 退職後トラブル

2024年 7月(第182号)

今月の事務所通信は、「退職後トラブル」と題して、退職後の在籍中給与や賞与の支払いをもって関係が終了しない事例のいくつかを取り上げました。残業代未払いは論外としても、支給日在籍要件を取り入れているときや、研修を受講した着後に退職されたときの費用負担等、退職後も関係が尾を引くケースは少なくありません。事業活動に全力を投じるためにも、他のトラブルに力を取られることは得策でありません。「退職後トラブル」の芽がある会社では、事前の対策を講じることをお勧めします。

社員が退職したときは、次の給与または賞与の支払いで関係が終了することが普通ですが、稀に尾を引くことがあります。今回は、このような退職後のトラブルを紹介します。

残業代未払い・

退職後に残業代未払いが顕在化するケースは多くあります。一定時間未満の残業時間を切り捨てしていたケースや、朝礼や掃除時間を勤務時間としていなかったケース、サービス残業を強いていたケース等があります。これらのケースでは労働基準監督署の調査を受け、必要に応じて行政指導されます。

ハラスメント等

退職後にハラスメントがあったと訴えてくるケースがあります。この場合には、在籍社員のときと同様に直ちに事実確認を行う必要があります。ハラスメントが事実であれば、謝罪とともに和解の道を探ります。会社だけでの解決が難しいときは、労働局の個別労働紛争解決制度いわゆる「あっせん」制度を利用することを勧めます。ハラスメントの事実が確認できなかったときは、調査内容を説明して、理解を得る努力を行うことが必要になります。

賞与の支給日在籍要件

賞与は法的な義務がないために会社が独自に制度化することができます。そのため性格も会社独自です。多くの場合、①功労報償、②利益分配、③将来への期待、④生活補填的性格があると言われています。一方で支給方法も独自に決められます。その中で、支給日に在籍している社員にだけに支給する「支給日在籍要件」を入れている会社も少なくありません。性格が③や④だけならば、在籍要件は合理的理由と言えます。算定対象期間を設定しての成績重視や業績連動を採っている会社では①や②の性格が強く理由付けが困難です。

最高裁判所は大和銀行事件(S57.10.7判決)等で支給日在籍要件を認めていますが、地方裁判所レベルでは反対の判決をしているところがあります。あくまで私見ですが、算定対象期間に在籍していた者には全額ではなくても期間中の寄与に応じて賞与を支払う制度が合理的と思われます。
もし元社員から支払いを求められたときは、会社のポリシーに関することなので簡単に和解はできません。最終的には裁判所に在籍要件有効性の判断を仰ぐことになります。

早期退職時の研修費用

人材育成のために費用と時間を費やしても、研修が終了した直後に退職されることがあります。会社としては費用の返済を求めたいところです。そこで受講前に一定年数以内に退職するとき費用の返済を契約することが考えられます。しかし、この契約は労働基準法第16条の「損害賠償予定の禁止」規定に抵触し違法となります。

返済を求めることができるのは、業務に直接関係がなく本人の希望で受講する研修に会社が費用を貸す契約を結んだときです、一定年数以上の勤務で返済を免除することもできます。これは単なる金銭賃貸借契約ですので問題ありません。

まとめ

退職により会社と元社員の関係が完全に終了しない例を紹介してきました。この他にも有期雇用契約期間中の退職、退職後の競業避止契約、秘密保持契約等があります。

残業代未払いは論外ですが、他は事前に対策を講ずることでトラブルの発生を防止もしくは軽減することができます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。